「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)】①』が掲載されました
環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。
芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。
今回から「第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)」と表題を改め、
この度、第1回が掲載されましたので、ご紹介いたします。
第5期第1回(令和6年10月9日掲載)
「2009年に許可取消処分の取消請求で勝訴」
1.全産連および各地の産廃協会での法令や技術の勉強
⑴廃棄物処理法の頻繁な改正
廃棄物処理法は制定後、排出事業者および産廃業者の責任を強化するため、あるいは新しい制度を設けるためなどのために頻繁に改正された。1976年と1991年の改正の後、1991年から1995年まで連続して改正され、1997年から2008年までと、2010年から2015年までも連続して改正された。
改正内容は大小さまざまであるが、このように頻繁に改正されると、業者であっても、これを理解し遵守するのは容易ではない。
全国各地の産廃協会は、会長以下の役員が、自分の協会の会員から廃棄物処理法の違反者を絶対に出さないようにという責任感で取り組んでいた。そのため、全産連も各地の産廃協会も、たびたび講習会を開いて法令や技術の指導をしていた。
残念ながら協会の会員からはもちろん、役員からも違反者が少しは出ていた。しかし、全体としてみれば時代が進むにつれて、産廃業者も随分とマナーがよくなり、優良業者も増えて、法令を遵守し適正処理を心がけるようになった。協会加入業者は不法投棄をほとんどしなくなった。
これに対して、排出事業者は社名の公表以外にはあまり怖れるものがなく、廉価で処理しようとする発想は根本的には変わらなかったように思う。
⑵私の講演
私は、東産協の機関誌に廃棄物処理法の事例を作って解説していたことや、全産連や東産協の顧問弁護士をしている関係もあったためか、東京以外の産業廃棄物協会から講演の依頼を受けていた。
正式名称を忘れて申し訳ないが、初回はたしか静岡県の産業廃棄物処理事業協同組合で、2回目が静岡県産業廃棄物協会だった。静岡県は、その後もあった。
そのほか順不同で挙げると、東産協、千葉県(数回)、沖縄県(協会結成前)、茨城県、栃木県、神奈川県、山梨県、埼玉県、大分県(一般廃棄物の協会)、福岡県(一般廃棄物の協会)、愛媛県、高知県、山口県、滋賀県、兵庫県、福島県などである。
このほか、講演事業を企画運営する会社からの依頼にも5~6回応じた。また、処理業の会社からの依頼もあった。
◆講演のテーマは欠格要件が多かった
欠格要件制度は、廃棄物処理法制定当初にはなく、1976年の改正で新しく設けられたものである。1991年の改正で欠格要件が強化されたため、業界において関心が非常に高い問題だった。そのため、欠格要件で許可を取り消される例や、許可申請が不許可になるような事例を作って紹介したものである。
◆芝田稔秋説の評価
「芝田弁護士による廃棄物処理法の解説には、役所に抵抗する発想があるようだ」、このように言われたことがある。
私は意図的にそういう解釈をするものではない。制度の趣旨・目的にそった適切な解釈をしているつもりであるが、結果的にそう感じられるなら、それはそれでよいと思った。
刑事事件で起訴された業者や、行政から許可取消処分や事業停止処分を受けた業者から、この起訴や行政処分にどう対応するかと相談を受ければ、当然、それらの起訴や処分の適法性を疑うことから始まる。そのため、おのずから抵抗する発想になるに違いない。
《権力に対する抵抗!》、それは弁護士としての宿命ではないだろうか。そう考えると、まんざらでもない。
2.私の事件簿:許可取消処分の取消請求の勝訴事件
東京高裁 2009年8月27日判決(原審:長野地裁2007年11月20日判決)
⑴少々事件を端折るが、長野(以下、N)県に本社のある原告Xが、産業廃棄物(汚泥発酵肥料)である汚泥392㌧に、異物(廃プラスチック類・木くず)が2572.4㌘混入したものを同県内の農地に不法投棄したとして、2006年7月に産業廃棄物の運搬業および処分業ならびに堆肥化処理施設の設置許可など全部の許可が取り消された。そこでXがN県を被告として、その許可取消処分の取消しの訴えを提起した。N地裁は、本件畑に搬入された堆肥は産業廃棄物(汚泥と廃プラと木くずの混合物)に間違いはなく、Xがそれを不法投棄したと認定し、Xの請求を棄却した。そこでXが控訴し、控訴審の代理人として私が依頼を受けた。
私の主張は、概略、以下の通りである。
⑵原判決は、本件の畑に搬入された肥料は、汚泥に異物が2572.4㌘混入するため堆肥として使いものにならないから廃棄物であると認定したが、その認定が誤りである。
①搬入物の性状の認定の誤り
原判決は、畑に投棄した本件肥料は全体が汚泥であり、それに「廃プラと不要の木くずの混合物」という異物が混入していると認定し、「堆肥性物体」の存在は全然認めず、超微量の異物以外はすべてが「汚泥」にあたるという認定であった。
では、その場合の「汚泥」は、どういう性状のものか、引き取ってきた下水汚泥そのままだというのか、廃棄物の性状についての説明が全然ない。
②下水汚泥と堆肥との比較
本件搬入物は、汚泥が熟成した堆肥「汚泥発酵肥料」に変質し、汚泥ではなくなっていた。引き取ってきたばかりの‟生の汚泥”は、糞便臭が強いこと、色は黄色っぽい。形状はまさに泥状で、水分が多くて(含水率約80%前後)、山積みできない。囲いがないと、一定の形状が保てない。もし大量に畑に搬入すると、ヌルヌルとした『汚泥の海』となる。面積一杯に広げることはできない。畑に敷けば少しは地中に浸透するであろうが、浸透よりも早く低所へ流れる。臭くてたまらず、その場に居られない。この汚泥の状況では、耕耘機での作業もできない。
③原告が畑に搬入したものは完熟した堆肥である
原告が搬入したものは、そういうヌルヌルした汚泥ではなく、完全に熟成した堆肥である。だいぶ固くなっている。水分が随分少なく、軽くて、山積みができる。その上に立っていられる。現に、県の担当職員が実況見分に来て、堆肥の上に登って立っている写真がある。
④県は、異物が2572.4㌘も混入しているから堆肥として使いものにならないなどと主張したが、堆肥の量は392㌧であるから、堆肥1㌧との割合では、異物はたったの6.5㌘。皆無というべき超微量である。
その他の多数の指摘によって、高裁の判決は原判決を誤りと認定し、逆転、勝訴したのである。県は最高裁に上告したが棄却された。(つづく)