INDUST2025年3月号に「令和5年許可処分取消請求訴訟(認容)について」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。

2025年3月号に「令和5年許可処分取消請求訴訟(認容)について」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2638551/

令和5年7月4日に広島地裁で最終処分場の設置許可申請に対する許可処分が取り消されるという判決がありました。行政が行った設置許可処分が取り消されるのは珍しいことです。この事例について2回に分けてご紹介していきます。今回は主要な争点の一つである「原告適格」について詳細に分析します。

この事件は、広島県が令和2年4月23日に安定型最終処分場の設置許可申請に対して許可処分を行ったところ、これに反対する周辺住民が取消訴訟を提起したものです。主な争点は二つありました。一つは訴訟を提起した周辺住民に「原告適格」が認められるかという点、もう一つは設置許可手続きが適正になされたかという点です。

原告適格とは、端的に言えば原告となる資格のことです。一般的に訴訟はすべての国民が行うことができますが、誰でも何についても訴訟を提起できるとすれば不都合が生じます。そこで法は、訴訟を行うにあたって最も利害関係を有する者に対して、訴訟上権利を請求する資格である原告適格を認めています。

行政訴訟における原告適格については、行政事件訴訟法第9条第1項が「処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴えは、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる」と規定しています。つまり、最終処分場の設置許可処分について訴訟を提起するためには、「法律上の利益を有する者」であることが必要なのです。

では「法律上の利益を有する」とはどのような場合でしょうか。施設の周辺住民は、一般的に考えれば施設設置について強い利害関係を持ちますが、一方で廃棄物処理法上の許可判断は行政に委ねられており、周辺住民であるというだけで原告適格を認めることが適切かという問題があります。

この点について、判例は「当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合」には、法律上保護された利益に当たるとしています。

本件の広島地裁判決では、廃棄物処理法の規定について詳細に検討し、次のような判断を示しました。廃棄物処理法は、産業廃棄物処理施設の設置許可要件として周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がされていることを定め、生活環境影響調査報告書の提出・縦覧や関係者からの意見聴取手続きを設けています。また、産業廃棄物の最終処分場から有害物質が排出された場合には、周辺地域の住民の生活環境が害されるおそれがあるだけでなく、健康被害や生命・身体への危害のおそれもあります。

これらを踏まえ、裁判所は廃棄物処理法が「公衆衛生の向上を図るなどの公益的見地から産業廃棄物処理施設を規制するとともに、産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して、そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む」と解釈しました。

結論として、「産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち、当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者」は、設置許可処分の取消訴訟における原告適格を有するとされました。

この判断は、廃棄物処理施設の設置許可処分の取消訴訟において、単に施設の周辺に住んでいるというだけでなく、有害物質の排出による被害を「直接的に受けるおそれのある者」という基準を示した点で重要です。

設置許可処分を受けた事業者にとって、どの範囲の住民に原告適格が認められるかは非常に重要な問題です。本件では一般論として周辺住民に原告適格が認められる可能性が示されましたが、具体的にどの範囲の住民に原告適格が認められるのか、そして本件最終処分場の設置許可要件の適合性については、別途詳細な検討が必要です。

この判決は、廃棄物処理施設の設置許可をめぐる法的紛争において、周辺住民の権利保護と事業者の権利のバランスをどう取るかという、永続的な課題に一つの指針を示したといえるでしょう。

本稿ではより詳しく解説していきます。

ぜひご覧ください。






簡単なご相談はお電話での見積もりも可能です

営業時間:平日9:30~17:30