INDUST3月号に「鹿児島地裁平成31(2019年)年2月26日判決 管理型最終処分場 建設等差止請求事件(建設、使用、操業の差止が認められなかった事例)」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。

2021年3月号に「鹿児島地裁平成31(2019年)年2月26日判決 管理型最終処分場 建設等差止請求事件(建設、使用、操業の差止が認められなかった事例)」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2096984/

平成31年(2019年)2月26日鹿児島地方裁判所で出された産業廃棄物管理型最終処分場の建設差止請求事件判決についてご紹介したいと思います。結論としては、原告(住民側)の建設差止請求は認められませんでした(請求棄却)。本判決では、重要な法的判断が示された、というわけではないのですが、管理型最終処分場の建設差止請求事件において、原告(住民側)がどのような主張を行い、これに対して裁判所がどのような判決を行ったか、ということが参考になる判決です。

1 建設差止請求
民事訴訟では、通常、損害が発生した後に、実際に発生した損害の賠償を求めて行われるのが通常です。しかしながら、健康被害等は、一度発生してしまうと事後的に金銭的賠償が行われたとしても健康な体が戻ってくるわけではなく、真に損害の回復が行われたとはいえません。そこで一度損害が発生してしまうと取り返しのつかない被害が生ずる場合には、判例は、「人格権」に基づいて、「将来生ずべき侵害を予防するために、侵害行為の差止めを求めることができる。」としています(熊本地裁平成7年10月31日等)。

したがって、産業廃棄物処理施設の稼働によって有害物質が排出される等によって、取り返しのつかない健康被害等が発生することが高い蓋然性をもって予想される場合には、産業廃棄物処理施設の建設の差止めが認められる可能性がある、ということになります。

2 事案の概要
本件は、X社が鹿児島県薩摩川内市内の採石場跡地に建設・操業している管理型最終処分場について、本件処分場の近隣住民等である原告らが,本件処分場の建設等により,原告らの生命・身体・財産が侵害されるおそれがある等と主張して、本件処分場の建設等の差止めを求めた事案です。

3 争点
本件で争われた主な争点は以下のとおりです。
⑴ 本件遮水シートの破損の可能性
① 本件遮水シートの強度不足
② 不等沈下
⑵ 本件処分場自体が破壊される危険性
① 土石流
② 土砂崩れ
③ 地滑り

4 本裁判所の判断(鹿児島地裁平成31年2月26日判決)
裁判所は以下の通り、いずれの争点についても認められないとの見解を示しました。
「その他本件全証拠によっても,本件処分場の建設等により,原告らの生命・身体等が社会生活上受忍すべき限度を超えて侵害される具体的危険があると認めることはできず,かかる生命・身体等に係る人格権に基づく差止請求は理由がない。」

5 最終処分場の構造上の安全性の判断基準
最終処分場の建設にあたっては、以下の技術上の基準を満たさなければならないとされています。
❶ 自重、積載荷重その他の荷重、地震力及び温度応力に対して構造耐力上安全であること
❷ 産業廃棄物、産業廃棄物の処理に伴い生ずる排ガス及び排水、施設において使用する薬剤等による腐食を防止するために必要な措置が講じられていること
❸ 産業廃棄物の飛散及び流出並びに悪臭の発散を防止するために必要な構造のものであり、又は必要な設備が設けられていること
また、これを受けて「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令」(総理府、厚生省の「共同命令」)が規定されています。

なお、本件最終処分場は、鹿児島県において平成3年以降県内に産業廃棄物の管理型最終処分場が1箇所もない状況にあり,県内で発生した管理型最終処分場において処分すべき産業廃棄物は,すべて宮崎県等の県外の管理型最終処分場において処分されていた状況に鑑み、鹿児島県において作成された「鹿児島県産業廃棄物処理計画」に基づいて建設されたクローズドシステム(屋内化)最終処分場でした。

本稿では裁判所の判断についてより詳しく解説していきます。

是非ご覧ください。

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