INDUST8月号に「ダイコー事件(食品廃棄物不正転売事件)総括」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2017年8月号に「ダイコー事件(食品廃棄物不正転売事件)総括」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/1529067/
廃棄物処理法改正法案の可決と前後して,平成29年6月20日付で環境省よりダイコー事件の総括が行われましたので,今回は,環境省のダイコー事件総括をご紹介しつつ,ダイコー事件について改めて考察してみたいと思います。
ダイコー事件は、産業廃棄物処理業者の株式会社ダイコーが、壱番屋(ココイチ)など複数の食品関連企業から処理委託を受けた食品廃棄物を廃棄せず、食品として転売していたという事件です。調査の結果、愛知県、岐阜県、三重県の倉庫に約15,000m³もの不適正保管された廃棄物が発見されました。実質的には大規模な不法投棄事件だったのです。
事件発覚前から、ダイコーの施設周辺住民は悪臭について愛知県に繰り返し苦情を寄せており、この苦情に基づき5年間で計13回の立入検査が行われていました。また排出事業者であるココイチも現地確認を行っていましたが、行政も排出事業者もダイコーの不適正処理を把握することができませんでした。一方で、「鮭フレークが入ったポリ袋が乱雑に重ねられた状態や、屋外で加工食品が入った梱包材が破損されたまま不適正保管された状態」が散見されていたとのことです。
事件発覚後の経緯を辿ると、2016年1月に不正転売が発覚し、愛知県はダイコーに対して改善命令を発出すると同時にココイチに対して回収を指導しました。2016年6月には、愛知県産業廃棄物協会に協力を要請し、協会会員企業の無償協力によって愛知県の「事務管理」として撤去作業が開始されました。2016年12月にはダイコー社長に対して詐欺罪および食品衛生法違反などで懲役3年(執行猶予付き)、罰金100万円の判決が下され、みのりフーズの元経営者に対しても詐欺罪等で懲役2年6月(執行猶予付き)、罰金50万円の判決が下されました。2017年2月には愛知県における食品廃棄物の撤去が完了しました。
この事件を受けて実施された再発防止策としては、電子マニフェストの機能強化、廃棄物処理業者に係る監視体制と適正処理の強化、排出事業者に対する転売防止対策の強化などが挙げられます。2016年6月には「食品廃棄物の不正転売防止に関する産業廃棄物処理業者等への立入検査マニュアル」が策定され、同年10月には「産業廃棄物処理業実地確認チェックリスト」が全国産業廃棄物連合会によって策定されました。
2017年6月20日の環境省による総括では、さらなる対応策として、①県・環境省による監視強化と職員研修の継続実施、②排出事業者責任の徹底(チェックリストの作成や措置命令による社名公表の可能性の周知、適正処理料金判断のための情報提供)、③マニフェストを通じた廃棄物処理の確認強化などが示されました。
私が特に注目したいのは、愛知県による廃棄物撤去の方法として「事務管理」という手法が用いられた点です。事務管理とは「法律上あるいは契約上の義務はないものの、自主的に他人の事務の管理を行うこと」を指し、本来ダイコーが撤去すべき廃棄物を愛知県が義務なく撤去した行為を指します。
愛知県はなぜ措置命令ではなく改善命令を発したのでしょうか。総括によれば、措置命令発出のための要件を満たしているか判断が困難であったため、改善命令を発出したとのことです。また措置命令を発していなかったため行政代執行もできず、「事務管理」という方法を採用したとのことですが、私の見解では、周辺住民から数年来悪臭の苦情が寄せられており、施設内は「呼吸が苦しいほどの刺激臭」であったとの報道もあることから、十分「生活環境上の支障」が生じており、措置命令の要件を満たしていたのではないかと思われます。
報道された情報に基づく限り、愛知県はまず措置命令を発し、その後行政代執行を行うべきであったと考えられます。措置命令を行わず「事務管理」という方法で廃棄物撤去を行ったことにより、処理業者および排出事業者の責任の所在があいまいになり、無償で撤去に協力した処理業者に負担が課されたことは問題であると言えます。
今後の課題として、適正な処理費用が支払われなければ適正な処理は不可能であることを認識すべきです。適正処理費用が支払われず、なおかつ適正処理を要求することは処理業者に不可能を強いるものです。適正な処理費用が支払われる仕組みが検討されるようになったことは大変意義深いと考えます。また、排出事業者の責任意識が希薄であることも問題であり、排出事業者が措置命令や刑事罰の対象となりうることをより一層周知していくことが必要です。
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