INDUST2018年4月号に「委託契約書の記載と契約の解釈」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2018年4月号に「委託契約書の記載と契約の解釈」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/1649720/
今回は、委託契約書の記載と契約実態に乖離がある場合にどのように考えるか、そしてそのような事態が生じることを防ぐためにはどのようにすべきか、基本に立ち返り考えてみたいと思います。
廃棄物処理法においては、排出事業者と処理業者の二者間で、書面により、処理委託契約を締結することが義務付けられております。したがって、排出事業者と収集運搬業者、排出事業者と処分業者それぞれの二者間において委託契約書を作成する必要がありますし、実務上もそのように委託契約書が作成されているはずです。
しかし、実際の廃棄物処理委託契約の締結過程においては、収集運搬業者と処分業者がお互い排出事業者に紹介しあうということが広く行われています。その結果、委託契約書自体は、収集運搬業者と処分業者それぞれが排出事業者との間で作成するが、処理費については、収集運搬業者を通じて処分業者に支払われる、あるいは廃棄物管理業者を通じて収集運搬業者・処分業者に支払われるという契約実態が生じることとなります。
法令の規定上は排出事業者と処理業者が直接契約をすることのみが要求されておりそれ以上の規制はありません。規制が及ばない限りどのような内容の契約をするかは自由というのが法令の建前ですから、現時点において処理費の支払事務をを他者に委託すること自体は法令に違反せず、適法です。
排出事業者が処理費の支払を他者に委託する場合、「支払を行う者」の倒産等により支払事故が生じた場合、下流工程にいる処理業者の報酬請求権が問題となります。この場合、委託契約書上は直接排出事業者に費用を請求することができますが、排出事業者としては事実上二重払になってしまいます。これが認められるのかについては、契約の解釈が問題となります。
この問題に関連するふたつの裁判例がありますのでご紹介いたします。
⑴東京地裁 H21.2.13 判決 請負代金請求事件
この事案は、排出事業者Aが、解体業者Bに解体工事を請負わせ、収集運搬業者CがBを介してAと収集運搬委託契約書を作成したケースです。処分料はBがCに支払うこととなっていましたが、Bが事実上倒産したため、CはAに収集運搬費用を請求しました。
東京地裁は下記の理由からCの請求を認めました。
Aは本来は廃棄物処理事業者と直接契約をしなければならないことを承知の上で、Cとの本件契約書の作成に応じ、Bに排出事業者としてAを記載させるなどの権限を与えて、本件現場の廃棄物処理を行わせていた。AB間において、Bがその責任と計算において、解体工事に伴い排出される産業廃棄物の処理を行なうことを明示的に示した客観的証拠はない。
この判決は、結果として、契約書記載通りの契約の成立を認めたことになります。
⑵東京地裁 H27.3.25 判決 運搬処分代金請求事件
この事案は、排出事業者Xが、解体業者Yに解体工事を請負わせ、収集運搬業者ZがYを介してXと収集運搬委託契約書を作成したケースです。XとYの請負契約においては、廃棄物処理費用は解体費用に含まれる旨の規定がありました。Yが倒産し、Zに支払いをしないので、ZがXに対して収集運搬費用を直接請求しました。
東京地裁は下記の理由からZの請求を認めませんでした。
XはYに本件業務の報酬を含む報酬を支払う義務を負っていたため、同一の内容の契約を、XZ間で締結することは考え難いから、Xは本件委託契約を成立させる意思を有していなかったというべきである。
Z自身、Xから報酬を受領したYが、Z社に本件業務の報酬を支払うことを認識していたため、Z社としても、本件業務をXからでなくYから受託する意思があったと評価すべきである。
そうすると、XZ間で本件業務を委託し、受託することについての医師の合致があったと認められないから、本件委託契約が成立したと認めることはできない。
この判決はケース⑴と類似しているものの、異なる結論を示しています。
これらの判例はどちらも、事実のみをもって契約の解釈をするのではなく、経緯や実態を踏まえて実質的に契約内容を解釈しています。そのため、委託契約書があるからといって、当然には、下流工程業者が中間者を飛び越えて排出事業者に費用を直接請求できるとは限らず、法的に不安定な状況が生じえることになります。そのため取引開始前に、排出事業者、中間者、下流工程者の3者間で、権利関係を明確にすべきです。
本稿ではより詳しく解説していきます。
是非ご覧ください。