INDUST2017年9月号に「ダイコー事件(食品廃棄物不正転売事件)総括」が掲載されました。

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。

2017年9月号に「ダイコー事件(食品廃棄物不正転売事件)総括」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/1560842/

本シリーズの3回目から5回目にかけて、平成29年度廃掃法改正についてご紹介いたしましたが、今回の改正には平成28年1月に発覚した食品廃棄物不正転売事件、いわゆるダイコー事件が大きな影響を与えました。今回は環境省のダイコー事件総括をご紹介しつつ、ダイコー事件について考察してみたいと思います。

ダイコー事件とは、CoCo壱番屋から冷凍ビーフカツの処分委託を受けていたダイコーが、それらを処分したように見せかけてみのりフーズに売却していたことが発覚したことが始まりです。調査の結果、愛知県、岐阜県、三重県の倉庫に不適正保管された約15000㎡の廃棄物が発見されました。
事件が発覚する前、ダイコーの施設周辺住民から繰り返し悪臭についての苦情が愛知県に寄せられており、行政は5年間で計13回の立入検査を行っていたとのことです。また排出事業者であるココイチも現地確認を行っていたとのことです。しかし行政、排出事業者ともにダイコーの不適正処理を把握することはできませんでした。

ダイコー事件が発覚後、事件において電子マニフェストを利用した虚偽報告が行われていたこと、行政の立入検査及び排出事業者の現地確認により不適正処理を発見できなかったことから、環境省は、①電子マニフェストの機能強化、②廃棄物処理業者に係る対策(監視体制の強化・適正処理の強化と人材育成)、③排出事業者に係る対策(食品廃棄物の転売防止対策の強化)を打ち出しました。

そして愛知県による廃棄物の撤去が完了した後、今回の事件についての総括が行われました。
①県・環境省による監視の強化
行政の立入検査を実効性のあるものとするため、職員の能力向上に継続的に取り組むことが重要であり、職員に対する研修を継続的に行っていくことが必要であるとしています。

②排出事業者責任の徹底
適切な実地確認の確保のために、排出事業者が果たすべき責務、具体的に行う必要がある事項(処理状況の確認や適正な処理料金による委託等)について、チェックリストと留意事項を作成し、都道府県による排出事業者への周知徹底、指導強化を図っていく必要があるとしています。
また排出者責任の徹底のために、排出事業者が措置命令の対象となることがあり、その場合には都道府県等による社名が公表され、社会亭信用を失墜する可能性があることを周知していくとともに、排出事業者が適正な処理料金を判断するにあたって有用となる情報について、廃棄物処理業者等の意見も聞きながら検討していくことが重要であるとしています。

③排出事業者や行政によるマニフェストを通じた廃棄物処理の確認
その他、マニフェストの虚偽記載等に関する罰則の強化や、電子マニフェストの一層の普及と不適正な登録・報告内容の疑いを検知するシステムへの改修の必要が指摘されています。

愛知県による食品廃棄物の撤去の方策について
①事務管理とは
ダイコーが残した廃棄物の撤去は、多くが廃棄物処理業の無償の協力により、愛知県の「事務管理」という方法で行われました。事務管理とは、「法律上あるいは契約上の義務はないものの、自主的に『他人の事務』の管理を行うこと」をいい、「他人の事務」とは、「本来他人が行うべき行為」と言い換えることができます。ダイコー事件の場合、ダイコーが残した廃棄物は本来ダイコーが撤去する義務がありますが、ダイコーに代わって愛知県が「義務なく他人(ダイコー)のために廃棄物の撤去という事務」を行う、というのが事務管理であり、愛知県の採った方策ということになります。

②措置命令はなぜ行われなかったか
ダイコーの残した廃棄物について、当初愛知県はダイコーに対して「改善命令」を行いました。すなわち、ダイコーの食品廃棄物保管状況は「保管基準」に違反しているため、「保管基準に適合するように保管状況を改善せよ」というものでした。また、許可取消を行っては改善命令を発することができなくなることから、許可取消が遅れたとのことでした。
本総括によれば、措置命令発出のための要件を満たしているか判断が困難であったため、改善命令を発出したとのことです。また、措置命令に従わないときは、行政が代わりに撤去を行う「行政代執行」が可能ですが、措置命令を発出していないために行政代執行を行うこともできず、「事務管理」という方法を採用したとのことです。

③措置命令・代執行は不可能であったのか
ア 措置命令の要件
ⅰ産業廃棄物処理基準又は産業廃棄物保管基準に適合しない産業廃棄物の保管、収集、運搬又は処分が行われた場合であること
ⅱ生活環境の保全上支障が生じ、または生ずるおそれがあると認められること

イ行政代執行の要件
ⅰ措置命令を発出できる場合であること
ⅱ措置命令を行うことを命ぜられた者が、当該命令に係る期限までにその命令に係る措置を講じないとき、講じても十分でないとき、又は講ずる見込みがないとき

考察
数年来、周辺住民から悪臭の発生で苦情が寄せられており、しかも、施設内は「呼吸が苦しいほどの刺激臭」で満たされていたとの報道もあり、十分「生活安全上の支障」が生じており、措置命令の要件を満たしていたのではないかと思われます。
また、代執行についていえば、ダイコーは、改善命令を受けた当日にココイチに対して処理困難通知を出していることからすれば、ダイコーは到底「措置命令に係る措置を講じる見込みがない」と認められると解され、措置命令が行われていたとすれば、行政代執行の要件も満たすものと解されます。
報道された情報に寄る限りにおいては、愛知県は、措置命令をまず発するべきであり、その後、行政代執行を行うべきであったと解されます。措置命令を行わず、「事務管理」という方法によって廃棄物の撤去を行ったことにより、処理業者及び排出事業者の責任の所在があいまいになる一方、無償で撤去に協力した処理業者に負担が課され、そのために処理業者に責任の一端があるかのように受け止められる可能性が残されたことは大きな問題であるといえます。本総括によれば、行政代執行に関する「行政処分の指針」の記載が愛知県の判断を招いた可能性があるとして、「行政処分の指針」の見直しが必要とされています。

本稿ではより詳しく解説していきます。

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