コモンのギモン(11)「完全撤去はやりすぎか?」

完全撤去はやりすぎか?

非常勤顧問 北村喜宣

2021年7月3日午前に発生した熱海市伊豆山地区での土石流事件は、まだ記憶に新しいですね。関連死を含め、28名が犠牲になりました。そこで、「ノーモア・アタミ」を至上命令に、宅地造成等規制法を改正して、「宅地造成及び特定盛土等規制法」(盛土規制法)が制定されました。2022年5月のことです。

福島県西郷村(にしごうむら)にある民家のすぐ裏に、2023年から建設残土とみられる土砂の堆積が開始され、高さ約22m・斜面勾配約48度というすごい状況にまでなりました。堆積量は、約4.1万㎥と推測されていました。そこで福島県は、2024年3月に同所を含む地域を特定盛土等規制区域に指定し、同年6月、行為者2名に対して土砂の撤去を命じました。ところが、命令が履行されなかったため、福島県は、行政代執行を実施したのです。

興味深いのは、その内容です。撤去されたのは約1.7万㎥で、高さ約15m・最大斜面勾配約30度にするにとどめられました。量だけみると、約42%です。

もともと何もない土地にとてつもない量の土砂が堆積されたのですから、全部を撤去すべきではないか。地域社会は、当然そう思ったはずです。ところが、盛土規制法の命令は、「災害防止のため必要であり、かつ、土地の利用状況その他の状況からみて相当であると認められる限度において」なしうると規定されます。同法の目的は、「国民の生命及び財産の保護」ですが、安定解析の結果、そのためにはそれで「必要かつ十分」なのです。

廃棄物処理法のように、法目的に「生活環境の保全」が含まれ、命令要件に「生活環境の保全上支障」が規定されていれば、おそらくはもっと多くの量の撤去が命じられたはずです。しかし、それでも完全撤去を命ずることはできないでしょう。「やりすぎ」とみなされます。

法律の目的規定にある「生命」「健康」「財産」「公衆衛生」「生活環境」などは、「保護法益」と呼ばれます。どの保護法益が規定されるかによって、命令できる範囲が変わってくるというのはおもしろいですね。

一回り小さくなった堆積土は、草を生やすためのシートで覆われ、2025年6月に現地を訪問した際には、芽生えで綺麗な黄緑色になっていました。10年も経過すれば、周辺との違和感もなく存在するのでしょう。

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