コモンのギモン(12)「塀の中は安全地帯?」

塀の中は安全地帯?

上智大学法学部教授 北村喜宣

廃棄物処理法に違反して産業廃棄物を大量に不法投棄した者が、実刑判決を受けて服役
中であるとしましょう。知事は、この者に対して、同法19条の5にもとづき、原状回復命
令を発出できるでしょうか。

命令をすることそれ自体は可能なように思われます。何といっても、相手方は、逃げも
隠れもしません。行政職員が面会に出かけ、弁明機会の付与通知を経たうえで、命令書を
手交すればよいでしょう。面会が拒否されても、通知書や命令書の送達は確実になされま
す。

ところが、面倒なのは、その強制履行です。命令に付された期限の到来があっても何に
もされないなら、知事は、廃棄物処理法19条の8第1項1号にもとづき、代執行ができるの
でしょうか。

形式的にみれば、できるように思われます。ただ、私がちょっとひっかかるのは、その
前提となっている命令ははたして有効なのかです。もちろん、きちんと送達されています
から、そのかぎりで効果は発生しているといえますが、問題は、「可能なことを命じてい
るのか」です。

命令を受けた受刑者本人による作業はできません。そこで、業者に委託して作業をして
もらうのですが、そのための契約締結などを拘置所内ですることは可能でしょうか。自分
でネット検索して情報を集め、コレという業者に電話してお願いするのですが、そうした
自由があるはずもありません。

そのように考えると、服役中の者に発出される命令は、「そもそも不可能を求めるもの
」として無効と解されはしないでしょうか。命令が無効なら、その有効性を前提とする代
執行もできないでしょう。

しかし、やはり命令は有効でしょう。本人が代理人に依頼して、必要な作業をすること
は十分に可能です。たしかに自由度は狭くなりますが、だからといって不可能を強いてい
るというわけではありません。納付命令も出され、国税滞納処分を通じた強制徴収も可能
といえます。

気になるのは、命令違反罪に問えるかです。たとえ本人が何もしなくても、「命令を履
行することはできなかった」と主張すれば、検察は起訴を躊躇するようにも思えます。も
っとも、そもそもの不法投棄で有罪にできれば、命令違反罪は大したことではないのかも
しれません。

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