コモンのギモン(19)「廃棄物処理法14条の3の2第1項1号」

「廃棄物処理法14条の3の2第1項1号」
非常勤顧問 北村喜宣
法律は悪文の宝庫といわれます。環境法におけるダントツの一位は、廃棄物処理法14条3の2第1項1号でしょう。2003年改正によるもので、いわゆる産業廃棄物処理業の義務的取消しの根拠規定です。
一文が1,000文字を超えるものがあるなかで、これは185文字です。分量としては、それほどではありません。ところが、ほかの条文が引用されているのに加えて、カッコ書きが三重になっており、そのそれぞれに「限る」という絞り込みがされています。ひとつひとつを確認していこうとすると、あたかもジャングルのなかに迷い込んでしまって方向がわからなくなってしまったような気分になります。
廃棄物処理法は、司法試験によく出る法律なので、法科大学院の授業でも、時間をかけて説明します。しかし、この条文については、「取り消されるのは、たとえば、こういう場合」とだけ伝えて、学生と一緒に条文を追いかける作業はしません。3回に1回は、自分自身もつまってしまい、格好が悪いからです。
なぜこのようになるのでしょうか。許可の取消しという重大な影響をもたらす規定なので、曖昧であってはなりません。必要かつ十分な範囲だけを取消要件とするという方針のもとで、ひたすら正確さを追求した結果なのでしょう。2003年改正を担当した係長に、「霞が関でこの規定がスッと読めるのは何人くらいいるの?」と聞いたら、「5人くらい」といっていたのが印象的でした。
環境省の元産業廃棄部課長は、ある座談会において、「大変読みにくい条文を作ってしまった」「申し訳ない」「機会があったらもう少し分かりやすくしていただきたい」と懺悔しています。一方、「法制局との調整など」もあったとされ、その結果として、不本意な条文ができたというのでしょう。
しかし、「機会があったら」というのは、この法律を全部改正なり廃止するときのことです。そうでないかぎり、内閣法制局との協議で一旦決定した内容はまず変わらないというのが霞が関の常識であるのは、元課長も十分に分かっているはずです。
そうであっても何とかしたいというのですね。「取り消さなければならない」というようにはなってますが、事情次第では、硬直的運用を回避できる余地があるように思います。もっとも、それを公文書で通知するのは困難です。結果として、透明性を欠く運用で何とか合理性を確保するほかないという、罪深い状況にあるのが、この規定なのです。