コモンのギモン(20)「疑惑の展開検査」
「疑惑の展開検査」
非常勤顧問 北村喜宣
安定型最終処分場には、いわゆる安定5品目(廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスくず・コンクリートくず、陶磁器くず、がれき類)しか処分できません。「安定」というのは、化学的に安定していて、有害物質が発生しないという意味です。このため、構造はいたって簡単で、俗に「素掘りの穴」といわれるところです。
こうした構造でも構わないのには、大きな前提があります。それは、安定5品目しか埋め立てられないことです。環境省のウェブサイトにアップされているスライドには、「安定型産業廃棄物以外の産業廃棄物を搬入しないよう、展開検査が義務づけられている。」という説明があります。
それでは、「展開検査」とは何でしょうか。環境省のウェブサイトには、「埋立処分の前に廃棄物を搬入車両等から降ろして拡げ、目視により安定型産業廃棄物以外の廃棄物の付着又は混入の有無を確認するものであり、搬入された廃棄物の全量を対象に、最終処分場内の埋立地以外の場所又は埋立地内部であって埋立処分が終了している場所など安定型産業廃棄物以外の廃棄物の付着又は混入が認められた場合に当該廃棄物の回収が容易に行える場所を定めて行うこと。」という説明があります。「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令」(共同命令)がこれを定めます。
要するに、搬入される産業廃棄物について、目視という人海戦術で異物を発見してこれを排除し、埋め立てさせないようにする措置です。まさに、適正処理のための土俵際的制度といえるでしょう。
しかし、これは可能でしょうか。安定型最終処分場は、人里離れた山間部にあるのが通例です。ぶちまけられた廃棄物に付着したり混入したりしている「非・安定5品目」を分離するのは、神業のように思えます。作業は遅々として進まないのに、展開検査を待っている廃棄物はどんどんと増えていきます。
ある裁判例(東京高判平成19年11月29日)は、「処分しようとする産業廃棄物に安定型産業廃棄物以外の産業廃棄物が混入していることを他人に知られることがなければ,これを安定型産業廃棄物として埋立処分を行う誘惑に駆られることになることは見やすい道理」とまで言い切ります。廃棄物処理法のもとでは「うまくいくはず」の制度は、裁判所には「できるわけがない」とみえているようです。
