コモンのギモン(21)「爆弾級調査報告書!?」
「爆弾級調査報告書!?」
非常勤顧問 北村喜宣
広島地決令和3年3月25日という裁判例があります。広島県知事の許可を得て安定型産業廃棄物処分場を建設していた処理業者に対して、飲用井戸を利用している関係住民などが、生命・身体・健康への被害発生を理由に、同処分場の建設・使用・操業を差し止める仮処分命令を申し立てた事案です。決定主文の一部は、「産業廃棄物最終処分場を建設、使用、操業してはならない。」でした。住民側の全面勝訴です。
仮処分命令を得るには、裁判所に対して、「ああなればこうなる」という因果関係について、疎明する必要があります。「疎明」とは、「十中八九そうだ」というのではなく「一応確からしい」という推測を合理的に抱かせるほどには説明しているいう意味です。この事件においては、住民側はそれに成功したのです。
なぜそれができたのでしょうか。決定文を読み進めると、住民側が提出した証拠が裁判所に大きなインパクトを与えたことがわかりました。それは、『平成20年度最終処分場に係る基準のあり方検討業務報告書』、および、『平成27年度廃棄物処理施設等に係る基準設定検討調査業務報告書』です。
裁判所は、証拠として提出された2つの報告書に含まれている安定型最終処分場の実情についての記述を踏まえています。たとえば、以下のような部分です。
「平成18年6月以降に埋立を開始した43施設に限れば,11の施設で15件の行政指導が行われ,そのうち「埋立物の違反」による指導は8件あり」、「搬入物実態調査として、安定的に稼働している3か所の安定型最終処分場において、埋立物を掘削して組成分析を行ったところ、安定5品目以外の廃棄物(木くず、紙くず及び繊維くず)が、各処分場でそれぞれ0.1パーセント、1.04パーセント、1,425パーセントの割合で含まれていた。」
安定型最終処分場には、前回コラムでご紹介した展開検査が義務づけられています。ところが、決定は、報告書の結果を踏まえてか、「監視員5名での検査等債務者〔事業者のことです。〕が管理マニュアルに記載した態勢を前提としても、限られた時間の中で,1日当たり2トンないし10トンのトラック30台分もの廃棄物を目視によって詳細に検査し、安定5品目以外の廃棄物の付着、混入を十分防止できるのか疑問がある。」と判断したのです。
報告書は、まさに爆弾級の効果を持ちました。ところで、この報告書ですが、環境省ウェブサイトにアップされているところをみると、委託調査だったのでしょう。こうした裁判結果に「役立つ」ことを、はたして同省は予測していたのでしょうか。
