INDUST2025年2月号に「共犯者の証言の信用性」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2025年2月号に「共犯者の証言の信用性」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2625720/
今回は令和5年に出された判決で共犯者の証言を扱った興味深い判決をご紹介します。
本件は、被告人Y1(被告会社Y2の元代表取締役)が不法焼却を被疑事実として逮捕された事案です。事案の概要としては、被告会社が運営する「長野リゾート事業」の責任者Aが、スキー場のロッジ解体から出た廃材を敷地内の穴に入れて燃やして埋め、その後も同様に別の店舗の解体廃材を不法焼却・不法投棄しようとしていた事件です。
この事件で最も重要な争点となったのは、被告人Y1がこれらの不法行為に関与していたかどうかです。Aと実際に作業を行ったDは、当初「Aの判断で行った」と供述していましたが、取調べの過程で供述を変更し、「被告人Y1の指示があった」と主張するようになりました。
被告人Y1はこれらの関与を完全に否定しており、誰の証言を信用するかが裁判の焦点となりました。裁判所はAの証言について、信用性が認められる方向の事情として次の点を挙げています。①もしAが独断で行っていたとすれば、後に被告人がこれを知った場合に不利益を被る可能性がある、②Aは被告人に恩義を感じており、虚偽供述による裏切りは心理的抵抗が大きい、③告発状が届いた際に被告人がAを叱責せず、むしろ告発者を特定して追放しようとしていた点などです。
一方で、信用性が認められない方向の事情としては、❶廃材の不法焼却による費用削減の利益が被告会社の規模からすれば微々たるものである、❷不法焼却が発覚すれば被告人が築いてきた会社の信用を大きく毀損する、❸Aが自身の地位喪失を恐れて虚偽供述をした可能性がある、❹告発事実を「事実無根の内容」と表現している点が、もし被告人の指示によるものであれば不自然、といった点が指摘されています。
Dの証言については、口止めを依頼された人物を明らかにしていないこと、Aと口裏を合わせている可能性があることから、信用性に疑問が呈されました。
裁判所は、Aの供述について「信用してよいのではないかと思わせる事情も相応に存在するが、その供述の信用性に疑問を抱かせる事情も少なからず存在し、その信用性を肯定する決め手に欠ける」と判断しました。その結果、「不法行為が被告人の指示によるものとは認められない」として、被告人および被告会社に対して無罪の判決が下されました。
この判決から読み取れる重要な原則は、共犯者の証言は「巻き込み」や「責任転嫁」の可能性があるため、その信用性は慎重に判断されなければならないということです。また、刑事事件においては検察官が立証責任を負うため、証拠の信用性が不明であれば「無罪推定の原則」により無罪となります。「疑わしきは被告人の利益に」という原則が徹底されているのです。
本件では、Aの証言の信用性は「不明」であると判断され、その結果、被告人の犯罪事実の立証が行われていないとして無罪判決が下されました。これは「白」の立証ではなく、「黒」の立証がないことを意味します。
廃棄物処理法違反事件では、このような共犯者証言の信用性が争点となるケースが少なくありません。証言の内容だけでなく、供述者の立場や動機、心理的背景、客観的状況との整合性など、多角的な視点から証言の信用性を吟味することの重要性がこの判例からも読み取れます。
本稿ではより詳しく解説していきます。
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