INDUST2024年2月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その6 ~条例があれば規制できる?~ 条例による規制と廃棄物処理法」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2024年2月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その6 ~条例があれば規制できる?~ 条例による規制と廃棄物処理法」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2486473/
行政が条例に基づいて行った処分が「指導配慮義務」に違反するとして違法とされた事例を解説します。今回取り上げるのは阿南市水道水源保護条例事件(高松高判平成18年1月30日)です。
この事案は、X社の事前協議書提出を受けて徳島県が阿南市に意見を求めたことから始まります。阿南市は地元住民の反対を踏まえ、水道水源保護条例の制定を検討し始めました。徳島県幹部から「指導要綱では許可申請を拒否できない」との意向を示されたこともあり、平成7年3月に条例が公布・施行されました。
この条例は、指定された水道水源保護地域内で規制対象事業場と認定された場合、その事業場の設置を罰則付きで禁止するものでした。X社は平成9年10月に県知事に設置許可申請を行い、一度は不許可処分を受けましたが、不許可事由を是正して再申請し、平成11年3月に「阿南市水道水源保護条例の規制対象事業場に認定されないこと」を条件として設置許可を得ました。しかし平成11年10月、阿南市は審議会の答申を受けて、X社の処分場を「水質を汚濁するおそれがある」として規制対象事業場に認定する処分を行いました。この認定過程においてX社は審議会への出席や資料提出が認められず、答申内容も知らされないまま、反論の機会も与えられませんでした。
この事案で法的に問題となるのは、廃棄物処理法が定めていない要件を条例で追加して規制することができるのか、という点です。また、規制対象事業場の認定過程でX社に何ら説明や反論の機会が与えられなかった手続きの適法性も問題となります。
高松高裁は、本件条例がX社の産業廃棄物処理施設設置を阻止するために「狙い撃ち的に制定された」ものであると認定しました。そのうえで、規制対象事業場の認定のための具体的審査基準が定められておらず、規制内容と審査基準が不明確なこと、事業者に適正な手続的処遇を受ける権利が保障されていないことは、阿南市行政手続条例に違反する疑いがあると指摘しました。
さらに裁判所は、本件施設が徳島県知事から廃棄物処理法の技術基準に適合しているとして許可を受けていることから、「水質を汚濁するおそれのある」施設ではないという考え方もあり得ると述べています。
以上の状況を踏まえ、裁判所は阿南市には「指導配慮義務」があったと判断しました。具体的には、X社と十分な協議を尽くし、施設の構造上の問題点や浸出液処理施設の問題点、遮水工に関する問題点への対策を促すなど、適正なものに改めるよう適切な指導をし、X社の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったというものです。この判断は、紀伊長島町水道水源保護条例事件(最高裁平成16年12月24日判決)を参照したものです。
しかし実際には、X社は審議会への出席が認められず、意見を述べたり資料を提出する機会も全く与えられず、答申内容を知らされたり反論する機会も与えられませんでした。裁判所はこれらの事実から、阿南市がX社の主張立証の機会を封じたうえで規制対象事業場認定処分を行ったと認定し、手続的に違法であるとして処分を取り消しました。
本判決の意義は、条例と廃棄物処理法の関係について直接判断せず、行政の「指導配慮義務」という観点から処分の違法性を認めた点にあります。特に、条例が「狙い撃ち的」に制定されたものであること、条例制定前から事業者の計画を行政が知っていたこと、県が設置許可基準を満たしているとして許可を出していることなどの事情がある場合には、行政には事業者に対する指導配慮義務があるとした点は重要です。
今後の課題として、「指導配慮義務」がどのような場合に認められるのか、本件で示されたような特殊な事情がある場合に限り認められるものなのかを明らかにしていく必要があります。廃棄物処理施設をめぐる行政と事業者のより適正な関係構築のためにも、この判例の示す指針を十分に理解することが重要です。
本稿ではより詳しく解説していきます。
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