INDUST2020年5月号に「コロナウイルスに汚染された可能性がある産業廃棄物の取扱いと排出事業者責任」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2020年5月号に「コロナウイルスに汚染された可能性がある産業廃棄物の取扱いと排出事業者責任」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/1971616/
今回はコロナウイルスに汚染された可能性がある産業廃棄物の取扱いについての判例をご紹介したいと思います。
事件の概要
B社は、A病院から出される医療廃棄物(産業廃棄物)の収集運搬を行っていましたが、ある日、A病院にコロナに感染した患者が通院していたという報道がなされました。B社はいつも通り、A病院から回収した廃棄物を委託先である中間処理業者であるC社に搬入しようとしたところ、C社はコロナに汚染された可能性のある廃棄物は受けられない、として搬入を拒否しました。そこで、B社はやむなくA病院に廃棄物を持ち帰ったところ、B社に対して損害賠償請求をするとともに「医師会に報告し、社名を公表する」として、B社を厳しく批判しました。
損害賠償義務の有無
まず、B社はA社に対して損害賠償義務を負うでしょうか。
B社のA社に対する損害賠償義務は、(ア)B社がA社に対する「債務」(契約上の責任)を果たしていないとき、または(イ)B社の責任でB社が契約上の責任を果たすことができなくなったときに発生します(債務不履行責任民法:415条)。
B社とA社の間には、A社の産業廃棄物について産業廃棄物収集運搬委託契約があって、B社の義務はA病院が排出する産業廃棄物について、A病院との上記契約に基づいて、契約上定められた運搬先まで運搬することです。したがって、B社はA病院の廃棄物をC社まで運搬すれば契約上の責任を果たしたことになります。ただ、C社が搬入を拒否したためB社はA社まで廃棄物を持ち帰ったにすぎません。そして、C社がA病院の廃棄物の搬入を拒否したことは、AC間の産業廃棄物処分委託契約の内容の問題であって、B社の責任ではありません。仮にC社が不当に受入拒否をした場合、A病院はC社に責任を問うべきであって、B社の責めに帰すべきではないのです。
したがって、B社に債務不履行責任を問うことはできず、A病院はB社に損害賠償を請求することはできません。
法的には上記のとおりですが、A病院に分かってもらうためには、B社としてはA病院から排出された廃棄物がコロナウイルスに汚染された可能性がある場合、C社としてこれまでと同じように廃棄物を受け入れることが困難であることをA病院に理解してもらうよう説明するしかありません。
処分会社としてコロナウイルスに汚染された可能性がある廃棄物を受け入れる場合、コロナウイルス感染を防止するための物理的な対策が必要です。手袋、マスク、防護服等、従来と異なる装備が必要となり、場合によっては廃棄物の搬入方法等、処理施設内の動線が変わることも考えられます。また、従業員の理解と教育が必要であり、これらの物理的・人的な対策にコストがかかるため、従来と同じ費用で処理を要求することはできません。
処理に要する費用を負担するのは排出事業者の責任であり(法第3条第1項、第11条第1項、第12条第6項、令第6条の2第4号へ、規則第8条の4の2第2号)、A病院はこれらの費用を負担せずしてC社に従来どおりの費用で処理を委託することはできません。また、廃棄物の種類(令第6条の2第4号イ)及び性状(規則第8条の4の2第6号イ)がこれまでとはそもそも異なるともいえます。
B社としては、法律上はB社の債務ではありませんが、事実上、上記の状況を場合によってはC社とともにA病院に対して説明を行い理解を求めることによって問題解決にあたることになると思われます。
仮に感染廃棄物を受け入れ、社内に感染が拡大した場合
(1) 従業員に対して発生する責任
ア 感染した従業員について
(ア) 労災
感染した従業員は労災(労働災害責任保険)を請求することができます。感染性廃棄物を処理するという業務を行いウイルスに感染したことは労働災害そのものだからです。
(イ) 会社に対する損害賠償請求(安全配慮義務違反)
感染した従業員は、労災では必ずしも補填されない損害について、会社の「安全配慮義務違反」に基づく損害賠償責任を請求することが考えられます(民法第415条)。会社は社員との雇用契約(民法第623条)に付随する義務として従業員が安全に業務を行うことができるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っており、従業員が感染性廃棄物を処理する業務でウイルスに感染した場合、この安全配慮義務に違反し、十分な感染防止対策をとっていなかった可能性があるからです。
イ 他の従業員について
休業手当の支払
ウイルスに感染した従業員が発生した場合に、会社がすべての従業員に対して出勤の停止を命じた場合、出勤停止を命ぜられた従業員は、会社に対して給与の60%以上の休業手当(労働基準法第26条)を請求することができます。
(2) 排出事業者の責任
ア 追加料金の請求
ウイルスに汚染された廃棄物であることを処理業者側が知らなかった場合、排出事業者が知らなかったかどうかを問わず、排出事業者に処理に要した追加費用の支払いを請求できると解すべきでしょう。廃棄物の処理に必要な費用を支払うのは排出事業者責任の原則から当然のことだからです。
イ 損害賠償請求の可否
廃棄物がウイルスに汚染されていることを知っていたか、もしくは知ることができた(疑いがあった)にもかかわらず、処理業者にそのことを秘して処理を委託し、処理業者に損害が発生した場合、処理業者はその損害を排出事業者の責めに帰すべき事由に基づくものとして賠償の請求ができるでしょう。
ウイルス汚染の可能性を知らなかった場合でも、現在の日本のように、ウイルスの存在が判明している状況では、ウイルス汚染の可能性を全く予期できなかったということはできないと思います。すなわち、損害賠償の請求を免れることはできないと思われます。
まとめ
コロナウイルスに汚染された可能性がある産業廃棄物の処理には、通常の処理よりも高度な感染防止対策が必要となり、それに伴うコストの負担は排出事業者の責任となります。また、処理業者がこれを適切に処理できない場合や、処理の結果従業員に感染被害が生じた場合の責任関係についても、排出事業者責任や安全配慮義務の観点から整理されるべきです。処理過程における各事業者間の適切なリスクコミュニケーションと責任分担が重要といえるでしょう。
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