INDUST2023年12月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その4 ~産業廃棄物処理施設設置不許可処分と取消請求(肯定)~」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2023年12月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その4 ~産業廃棄物処理施設設置不許可処分と取消請求(肯定)~」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2465689/
今回は産業廃棄物処理施設設置許可申請に対する不許可処分が信義則違反として取り消された重要判例(和歌山地裁平成16年3月31日判決)について解説します。
1 事案の概要
この事案では、X社が和歌山市に産業廃棄物処理施設の設置許可申請を行い、市は当初は許可処分相当との判断を内部で行っていましたが、告示・縦覧後に周辺住民から強い反対を受けると、X社に説明や協議の機会を与えないまま不許可処分を行いました。X社はこれを不服として不許可処分取消訴訟を提起しました。
2 事案へのアプローチ
X社からの主張は大きく分けて2点です。一つ目は、不許可事由が実際には存在しないか、または不許可事由として不適切なものであること、二つ目は、不許可処分そのものが信義則に反して違法である、というものです。
⑴ 許可処分事由
和歌山市は7つの不許可事由を挙げました。
・灰出し設備の飛散防止構造の不備
・破砕施設の集塵・散水装置の欠如
・防爆設備の不存在
・排水処理設備の不適切性
・廃棄物の飛散・悪臭防止設備の不備
・受入・貯留設備の容量不足、そして周辺環境への配慮不足
これに対してX社は、各事由について技術的に問題がなく、特に防爆設備については廃棄物処理法上そもそも要求されていないと反論しました。
⑵ 信義則
信義則とは、社会生活において相互に信義を重んじ誠実に行動することを求める法原則です。仮に不許可事由が存在したとしても、不許可処分そのものが信義則に反すれば、結果的に不許可処分はできないことになります。
3 裁判所の判断
⑴ 信義則違反と不許可事由の存否の判断の先後関係について
裁判所は、通常であれば技術基準への適合性という実体的判断を先に行うところ、本件では信義則違反の判断を優先しました。これは、信義則違反が認められれば、不許可事由の存否に関わらず不許可処分が違法となるためです。
⑵ 不許可処分が信義則違反にあたるかについて
ア X社が信頼するに至った事情
裁判所は、X社が合理的な信頼を形成するに至った事情を詳細に認定しました。平成12年7月末から継続された技術基準についての協議、内容的問題がないとしての申請受理、担当者による許可相当との判断と決裁の申請、申請受理後の協議での不許可事由への言及の完全な不存在、受理後不許可処分までの間の質問・指導の完全な欠如、そして市の担当者らが平成13年2月から3月頃まで技術基準不適合の判断をしていなかったことが認定されました。
イ 信義則違反の認定
これらの事情を総合すると、X社は不許可事由について何らの質問・指導を受けていなかったのであるから、本件許可申請が不許可処分されることはないと信頼していたものと推認されるとしました。そして、和歌山市においては、この信頼を保護するため、不許可事由について技術上の基準に適合しないか、その疑いがあることを指摘して、X社に説明や申請の補正をする機会を与えるべき信義則上の義務があったと判断しました。このような機会を与えることなく不許可処分をすることは許されないとして、信義則違反を認定しました。
⑶ 不許可処分を信義則違反とすることと処理法の趣旨、法律による行政との整合性について
裁判所は、信義則違反による不許可処分の否定が廃棄物処理法の趣旨や法律による行政の原理を没却するのではないかという問題についても検討しました。しかし、裁判所は、信義則上不許可事由を処分理由とすることができないのは本件不許可処分についてのみであり、X社に生じた信頼を保護するために必要な指導や見解変更の告知を行い、これに対応するのに必要かつ十分な機会を与えた上であれば、市は審査の上で各不許可事由が存在すると認められる場合、これらを理由として改めて許可申請を不許可とすることができると述べました。したがって、廃棄物処理法の趣旨や法律による行政の原理を没却することはなく、かえって手続的に適正な方法によって審査をすることができるとしました。
⑷ 不許可事由3(防爆設備が存在しないこと)について
裁判所は廃棄物処理法施行規則の規定上、本件申請に係る各施設の技術上の基準として防爆設備は要件として掲げられていないことを指摘しました。そして、廃棄物処理法の許可制は私権の行使を公共の福祉のために制限するものであり、法定要件を満たさなければ許可してはならないと同時に、法定要件を満たす場合には許可しなければならないことをも定めた規定であるとして、産業廃棄物処理施設設置の許否判断については行政庁に裁量の余地はないと解しました。したがって、明文上の根拠がないにもかかわらず新たな不許可要件を作出して処分することは許されず、防爆設備を不許可事由とすることはできないと明確に判断しました。
⑸ 結論
以上のとおり、本件不許可処分は、その掲げる不許可事由が、信義則上、本件不許可処分の処分理由とすることが許されないこととなるから、本件不許可処分は、結果として、処分理由を欠いた違法なものといわざるを得ないとし、本件不許可処分を取り消すという結論となりました。
次回は、本判例についての解説と関連判例をご紹介したいと思います。
本稿ではより詳しく解説していきます。
是非ご覧ください。