INDUST2025年4月号に「令和5年許可処分取消請求訴訟(認容)について」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。

2025年4月号に「令和5年許可処分取消請求訴訟(認容)について」が掲載されました。
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令和5年7月4日に広島地裁で最終処分場の設置許可申請に対する許可処分が取り消されるという裁判所の判断について、前回に引き続きご紹介いたします。

ウ 本件についての原告適格
(ア)原告番号2ないし6、9ないし11について

本件と原告らの各居住地までのおよその距離は、1.2㎞以内であることが認められる。
標記の原告らについては、本件処分場から有害な物質が排出された場合に水質の汚濁等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域に居住するものということができ、本件許可処分の取消しを求める原告適格を有するものと認めるのが相当である。

(イ)原告番号1、7、8及び12について
原告番号1、7、及び8の居住地は、本件土地からそれぞれ1.2㎞以上離れている。
原告番号12については、本件土地からの距離が約0.9㎞ではあるものの、本件土地の西側にある分水嶺の反対側に位置し、本件処分場からの雨水や浸透水が流下することが想定される川の上流に位置する支流の流域に位置することが認められる。そうであれば、標記の原告らについては、本件処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域に居住するものということはできないのであって、同被告らが本件許可処分の取消を求める原告適格を有すると認めることはできない。

(ウ)小括
原稿番号1,7,8及び12には原告適格が認められない。

⑵争点2(最終処分場設置許可要件の有無)の2(廃棄物処理施設の設置に関する計画が周辺地域の生活環境保全について適正な配慮がなされたものであるかどうか)について
ア 基準となる考え方

廃棄物処理法は、産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がなされたものであるかどうかについては、生活環境の保全に関し所定の事項について専門的知識を有する者の意見を十分に尊重して行う都道府県知事の合理的な判断にゆだねているものと解される。
そのため現在の科学技術水準に照らし、都道府県知事の調査や審査及び判断の家庭に看過し難い過誤、欠落があると認められる場合には、都道府県知事の判断に不合理な点があるものとして、その判断に基づく当該産業廃棄物処理施設の設置許可処分は違法であると解するのが相当である。

イ 本件
(ア)本件について認定できる事実

本件土地の周辺には、井戸が設置されている。

(イ)有識者からの意見
第二回有識者会議において、有識者は本件土地の最近傍民家や工場が井戸水を使用しているようであれば、処分場から影響を受ける可能性があるため、深井戸なのか浅井戸なのかを確認の上、現況の水質を検査する必要がある旨意見を述べた。

(オ)判断
ⅰ調査指針

最終処分場に係る生活環境影響調査のうち、地下水については、本件処分場のような陸上埋立最終処分場の場合、当該施設の存在による地下水の水位や流動状況への影響等を検討するものとされ、上記の影響を検討するための現況把握項目の一つとして、「既存井戸の水質」及び「施設計画地周辺の井戸分布及び地下水利用状況等」が挙げられている。調査方法として、地下水の採水にあっては、「施設計画地に最も近い採水可能な既存井戸において採水する。また、複数の既存井戸と施設計画地との距離が比較的近い場合には、採水可能なすべての既存井戸を調査対象とする」と謳われている。

ⅱ訴外申請者Xの調査
訴外Xは、最近傍民家にある井戸のいずれについても、採水はもちろん、戸別訪問による井戸の利用状況、構造、地下水位の確認をせずじまいであった。訴外組合は、本件有識者の意見を踏まえた、最近傍民家における深井戸なのか浅井戸なのかの確認や現況の水質検査にも至ってないし、本件土地と比較的近い地点にある採水可能なすべての既存井戸を対象とした調査もしていない。

ⅲ評価
本件環境影響調査の結果のうち地下水をめぐる現況把握に関する部分は、生活環境の必要十分で現況の正確な把握という上記の前提が欠けていたといってよい。
したがって、「地下水」をめぐる処分行政庁の調査や審査及び判断の過程には、看過し難い過誤、欠落があると認められるというべきである。

(3)結論
以上より(1)原告番号1,7,8及び12の訴えは、原告適格を欠くため不適法である。
(2)その余の原告らの請求はいずれも理由があるため、本件設置許可処分を取り消す。

5 解説
(1)原告適格について

本件処分地から1.2㎞圏内に居住する原告らについては原告適格を認め、本件処分地から0.9㎞に位置する原告番号12については、居住地が本件土地の西側にある分水嶺とは反対側に位置するなどの理由から、本件処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域に居住するものということはできないとして原告適格を否定しました。行政処分取り消し訴訟などにおいてどの範囲の周辺住民に原告適格が認められるかについては許可申請者にとっても重大な問題です。

(2)本案(許可要件の有無)について
裁判所は、最終処分場の設置許可要件のうち、少なくとも「生活環境保全について適正な配慮がなされたものであること」について、判断の前提となる生活の現況に対する正確な把握がなされていないため、その他の要件について判断するまでもなく、本件設置許可処分は違法としました。
設置許可申請にあたって、都道府県知事が有識者の意見を聞く機会が設けられており、都道府県知事は、有識者の意見に拘束されるわけではありませんが、有識者が何をどのように指摘し、これに対してどのように都道府県知事が評価したかは都道府県知事の審査が適切なものであったかどうかにあたって審査されます。
そして、都道府県知事が、審査すべき事実を審査せず、あるいは審査すべき事実自体が調査されていない場合には、「都道府県知事の調査や審査及び判断の家庭に看過し難い過誤、欠落があると認められる」として都道府県知事の処分が違法とされる場合があり、まさしく本件は、調査の前提を欠いたものとして違法とされました。

本稿ではより詳しく解説していきます。

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