INDUST2017年10月号に「豊島事件を振り返って」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。

2017年10月号に「豊島事件を振り返って」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/1575547/

豊島事件とは
豊島(てしま)事件とは、豊島観光という企業により、香川県小豆郡土庄町の小さな島(面積14.4km²)に約61万6525m³もの産業廃棄物が不法投棄された事件です。撤去対象総量は91万2373トンに達し、その内容はシュレッダーダスト、廃油、廃酸、廃プラスチックなど多岐にわたりました。この事件は1990年11月に兵庫県警の強制捜査により発覚しましたが、島民は以前から悪臭や健康被害について香川県に陳情を重ねていました。しかし香川県は不法投棄を黙認し、結果的にこれを助長することになりました。2017年3月28日、27年の歳月と727億円の総事業費を経て、ようやく廃棄物の撤去が完了しました。

豊島事件はなぜ起こったのか
豊島観光の監督行政庁である香川県は豊島観光の違法行為を認識しつつこれを黙認していました。豊島観光は「汚泥(製紙汚泥・食品汚泥・木くず・家畜糞)」を処理することによって「ミミズの養殖」を行うとして廃棄物処理業の許可を取得しましたが、豊島観光に廃棄物処理業の許可を与えるにあたって地元住民の強い反対があったため、県は豊島観光に対して重点的に監視し指導を行うことを住民に対して約束していました。ところが県は立入検査を行った当初より、豊島観光が許可品目外の産業廃棄物の収集運搬及び処分を行っていたことを把握していたにもかかわらず、豊島観光に対し、野焼きを止めることや、ミミズの養殖を行うよう指導や警告を行うだけでした。豊島観光はこれらに従いませんでしたが、県は豊島観光に対して許可の取消、原状回復を命ずる措置命令等を発することはありませんでした。
さらに担当職員らは、シュレッダーダスト等は産業廃棄物ではなく「有価物」であり金属回収の原材料であるとする豊島観光の主張に合わせ、豊島観光に対し「金属くず商」の許可を取るよう「指導」していたことも担当職員らの供述調書(刑事記録)より明らかになりました。その一方で県は、住民らに対しては、シュレッダーダストの回収行為等は,金属くず商の許可があるから「合法」であると説明し、豊島観光を擁護したのです。

豊島事件の解決
公害等調整委員会による調停
1994年(平成6年)、住民は公害等調整委員会に申立てを行い、専門委員による調査によって約60万トンの廃棄物が投棄されたことが判明しました。しかしその後も県は自らの責任を認めず、廃棄物の有害性を否定し安全性は担保されているとして撤去は不要であるとし、廃棄物の全量の撤去を求める住民側と鋭く対立しました。調停は計37回開催され、2000年(平成12年)6月、ついに豊島に不法投棄された産業廃棄物の全量の撤去と無害化処理、処分地周辺の水質の浄化を行うことを県と住民側が合意して調停が成立しました。

⑵県に対する国家賠償請求訴訟はなぜ行われなかったのか
ア 国家賠償請求訴訟の可能性と裁判所による県の責任の指摘
行政の違法行為によって住民が被害を受けたときは、被害を受けた住民が行政に対して国家賠償請求訴訟による損害賠償を求めることができます(国家賠償法第1条)。
本件において、県は「豊島観光の不法投棄を認めつつこれを黙認し、許可取消処分を怠った」という不作為(必要な行為をしないこと)という違法行為、あるいは豊島観光の不法投棄を助長したという違法行為があり、これにより住民に健康被害等が生じていることから、国家賠償請求訴訟を提起することも検討されたのではないかと思われます。前述の豊島観光に対する廃掃法違反の刑事事件においても,判決文において「(県は)違法な現状を認識しながら…本件犯行を助長せしめた責任の一端が存する。」とされ、県の責任が指摘されていました。

イ 公害等調整委員会(公調委)による解決の選択
住民から相談を受けた弁護士は国家賠償請求訴訟等、訴訟によって県の責任を追及するのではなく、公調委による解決を選択しました。
裁判手続による場合、住民側において被害の原因(豊島観光の不法投棄によって健康被害等の被害が発生していること,豊島観光の不法投棄を県が助長したこと)と被害発生との因果関係を立証しなければなりません。しかし「被害の原因」と「被害の発生」を立証するということは、豊島観光による不法投棄の実態及び発生している汚染状況の調査を住民が住民の費用で行わなければならないことを意味します。
これに対して公調委は他の行政機関や学識経験者らに調査を委託して専門知識を収集する権限があります。実際に公調委の嘱託により専門委員が行った調査に要した費用は,2億3600万円でした。結果的に調停における専門委員、技術検討委員会などによって技術的にも高度な水準で解決方法を検討することができたといえます。

ウ 具体的解決方法
① 豊島観光が不法に投棄した廃棄物の全量と汚染土壌の全量を撤去し、豊島の隣の島である直島において二次公害を発生させることなく焼却・溶融処理を行い無害化すること。
② 無害化処理の結果生成されるスラグ、飛灰などの副産物は再生利用するものとする。
③ 処分地内の地下水、浸出水を浄化する。

エ 特記すべき事項
調停で決定された内容は上記のとおりですが,本調停成立にあたっては、以下の特記すべき事実がありました。
① 廃掃法施行後、初めて排出事業者が排出事業者責任に基づき原状回復のための処理費用の一部を負担したこと(総額3億7000万円)
② 直島に建設される中間処理施設は、中間処理後のスラグ、飛灰等を最終処分することなく再生利用しようとするものである点において、今後我が国が目指すべき循環型社会に向けた展望を開くものであるとされたこと

豊島事件後の法改正等
豊島観光に対して廃掃法違反で有罪判決が行われた1991年(平成3年)以降,産業廃棄物処理業について許可更新制度が導入され、また廃棄物処理施設について許可制の導入、野焼きの禁止、排出事業者が措置命令の対象とされる、不法投棄の罰則の数次の引上げなどの改正が行われました。
また2001年(平成13年)には「行政処分の指針について(通知)」が発出され「断固たる姿勢により法的効果を伴う行政処分を講じなかったことが、一連の大規模不法投棄事案を発生させ」たとして違法業者に対する自治体による厳正な処分が要請されました。
2003年(平成15年)には、事業者に許可取消事由が発生した場合、行政の義務的許可取消規定が設けられました(廃掃法第14条の3の2)。

考察
豊島事件はその大規模さゆえに、その後多くの法改正が行われる要因となりました。豊島事件の教訓が生かされていること事自体は喜ばしいことですが、一方で行政の規制が過度にわたり、法令上に根拠のない行政指導が行われるなど、不可解で外から確認しづらい規制が、円滑な廃棄物処理業の遂行と適正な処理を阻む一因となっているように思います。あらためて「適正な」監督権の行使が重要であると感じますが、その話はまた大きなテーマとなりますので別の機会にしたいと思います。

本稿ではより詳しく解説していきます。

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