INDUST2021年9月号に「建設アスベスト訴訟最高裁判決について」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。

2021年9月号に「建設アスベスト訴訟最高裁判決について」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2158743/

建設アスベスト訴訟において、令和3年5月17日、初めて国の賠償責と建設メーカーの責任を認める最高裁判決が出されましたので、今回は、この令和3年5月17日最高裁判決をご紹介したいと思います。

アスベスト(石綿)とは、天然に繊維状を呈している鉱物で、耐火性、耐熱性、防音性、耐摩耗性に優れ、しかも安価であることから、高度経済成長期には「夢の素材」といわれ、様々な工業製品、建材製品に利用されてきました。また、繊維が非常に細かく、飛散により空気中に浮遊し、吸引しやすいという性質があります。

高度経済成長期には非常に利用されていたアスベストですが、吸入すると肺がん、中皮腫等の深刻な健康被害を引き起こす危険性があり、潜伏期間が長く(10年〜50年)、「静かな時限爆弾」といわれます。アスベストに対する規制は徐々に強化され、平成24年(2012年)には、その使用が全面的に禁止されることとなりましたが、社会においてアスベストの問題が深刻なものとして共有されたのは遅く、その間、特に高度経済成長期には建材として多くのアスベストが利用され、また、解体現場などでも吸引に対する予防策が適正に行われないままとなっていました。建設アスベスト訴訟の問題性もそこにあるといえます。

社会でアスベストの有害性が注目されるきっかけとなった事件として「クボタショック」があります。クボタショックとは、2005年6月29日、毎日新聞が兵庫県尼崎市の大手機械メーカー・クボタの旧神崎工場の周辺住民にアスベスト疾患が発生していると報道したことを契機として、社会的にアスベスト健康被害が注目され、社会問題化されるに至った現象のことをいいます。報道によると、「社員の石綿関連病による死者は78年度から出始め、これまでに75人に達し」、社員の死者は1人を除き旧神崎工場(尼崎)で働いていたとのことです。さらに、石綿による被害は周辺住民にも及び、「その周辺住民5人も「中皮腫」を発症し、うち2人が死亡」していると報道されました。クボタは、長年石綿製造に関わった企業の社会的責任を果たす見地から、2006年4月に、石綿関連病に罹患した社員及び周辺住民に対し、救済金を支払いました。

石綿の製品に対する使用は、平成24年(2012年)には全面的に禁止されましたが、それまでの間、石綿に関する規制は段階的に強化されてきました。令和2年4月1日には、今後、高度経済成長期に建設された建物の解体のピークが見込まれることも踏まえて、大気汚染防止法及び石綿障害予防規則が大きく改正されました。

令和3年5月17日最高裁判決
本件は、上記のような法規制下において長期にわたり石綿ばく露を受けてきた大工らが、国及び建材メーカー数社を相手として提起した訴訟です。原告となった大工らは、国に対しては、石綿が中皮腫、肺がん等の重篤な健康被害を引き起こすことを認識しながら適切な規制を行わなかったことをもって違法であるとして国家賠償を請求しました。建材メーカー数社に対しては、建材が石綿を含有するものであり、石綿が重篤な健康被害を引き起こすことを製品に表示すべき義務があったのにもかかわらずそれを怠った結果、その建材を使用した大工らに重篤な健康被害を引き起こしたとして損害賠償を請求しました。

国の責任
労働大臣は、昭和50年には石綿の危険性を認識しており、適切な規制権限を行使すべきであったとされました。具体的には、石綿含有建材の危険性の表示や防じんマスク着用の義務付けなどを指導監督すべきでしたが、これを怠ったことは違法とされました。

建材メーカーの責任
建材メーカー3社は、製品に石綿含有の危険性を表示しなかった「非表示」という行為と被害の因果関係を否定できず、民法719条1項後段の類推適用により、被災者の損害の3分の1について連帯して賠償責任を負うと判断されました。

この判決は、企業の安全配慮義務の重要性と、労働者の健康被害防止のための情報提供の必要性を改めて示すものです。産業廃棄物処理業界においても、アスベスト含有廃棄物の適切な取扱いが一層重要となります。

本稿ではより詳しく解説していきます。

ぜひご覧ください。

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