「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第3期:1980年代(昭和55年以降)】②』が掲載されました
環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。
芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。
この度、「第3期:1980年代(昭和55年以降)」の
第2回が掲載されましたのでご紹介いたします。
第3期第2回(令和6年6月26日掲載)
「同意書の提出は、住民からの批判を恐れた行政の保身」
1.最終処分場の種類
産廃の最終処分場には、安定型、管理型、遮断型の三つの種類がある。
⑴安定型処分場
◆安定型処分場とは、安定5品目の産廃だけを埋立処分する【埋めるだけ】の処分場のことである。「安定」とは、産廃が雨水などに濡れて腐るなどの性状変化がなく安定しているという意味である。
安定5品目とは①廃プラスチック類、②ゴムくず(天然ゴムに限る)、③金属くず、④ガラスくず・コンクリートくず及び陶磁器くず、⑤がれき類を指す。
◆安定型処分場特有の問題がある。
それは、搬入料金が管理型処分場と比べて廉いから(半値ぐらいか)、管理型で処分すべき産廃を安定型処分場へ搬入する誘惑があることである。そのため住民は、安定型処分場には何を埋め立てるか信用できないといって建設に反対する。
⑵管理型処分場
管理型処分場は、【埋めたうえ、管理が必要】な処分場である。
埋立処分する産廃は、有害物質の濃度が判定基準に適合した燃え殻、ばいじん、汚泥、紙くず、木くず、繊維くず、動植物性残渣などである。腐敗など性状が変化するため、管理型処分場を造るには、後述のように多数の設備を整備する必要がある。当然、搬入料金が高くなる。
◆「管理」するとは?
管理型処分場では、埋立後に、廃棄物が徐々に分解され、重金属やBOD成分、COD成分、窒素、廃酸・廃アルカリを含んだ浸出水が生じる。そこで、埋立処分した廃棄物が直接大地に接触しないよう隔離するため、壁面および底部の全面にビニールシートを敷き詰めて遮水工を施し、地下に浸透しないようにする。廃棄物から発生した排水は、集水管で集めたうえ、水処理施設で排水基準に適合した水に浄化して放流するなどがある。
2.最終処分用地の入手が困難
最終処分場の設置には、適地を探して買い取ることから始まるが、それが非常に困難である。
地主本人は、もう自分もトシだし、使わないから売ってもよいと思っても、周りの人は、最終処分場にすれば自然環境が破壊されるし、施設近くに居住する者としては反対だと立腹する。地主は売ったらカネが入るからまだいいが、周りの住民たちは処分場ができて、迷惑を受けるだけだと反対する。
◆私は、用地を求めている最終処分業者と地主たち10人の集まりに請われて出席したことがある。地主たちは絶対に売らないという強い拒否的な気持ちではなく、業者の素性を見たい、業者の人物や態度を見て判断したかったように思えた。そういう意味で、期待のできる地主たちであった。
地主たちは、最終処分場用に売ると、自然環境を破壊すること、処分場に降った雨が村の仲間の井戸水を汚染することが気になり、なぜ産廃の処分場に売ったんだと詰問されるのを心配していた。
私は地主たちに、当業者は、別の県で最終処分場を経営しているが、行政からの咎めを受けたり住民から反対されたこともなく、優良な業者である、皆さんの土地を最終処分場に提供することは、長年荒れ放題にして、死蔵しているような土地を新しく活用することになる、処分場予定地は、調査によって村の井戸より下流にあることが判ったので、村人から非難されることはないでしょう、跡地は地元住民が希望する用途に使うようにするので恨まれることもないでしょうと話した。地主たちは頷いていた。
この土地は後日、売買が成功し、最終処分場の設置許可も下りた。
3.最終処分場設置の許可取得も困難
最終処分場用地の買い取りも困難だが、その買い取りに成功しても、最終処分場の設置の許可取得という難関が待っている。
最終処分場の設置については、本法施行当初は「純粋の届出制」であったが、1976年に「計画変更命令付き届出制」(設置の届出をしてから一定期間、行政からの適否の回答を待つ)に改正され、1991年の改正で、「許可制」になった。
しかし、そもそも許可制では、許可要件を充足する書類を提出すればよく、要件外の書類は提出不要なはずなのに(羈束裁量)、行政は許可要件外である住民の同意書の提出を強要したのである。
◆最終処分場の設置の許可要件としては、施設の構造・設計が法令の定めた基準に合致する図面や書面を提出すればよい。それは各業者の製作で可能である。
ところが、法令に規定がないのに、行政から、最終処分場の許可申請者に対し、計画地を中心に、半径500㍍とか700㍍の範囲で、3分の2の住民の同意書を提出するよう指示され、提出しないと最終処分場の設置は許可しないといわれたのだった。実際、許可要件は全部揃っているのに、同意書が1~2通揃わないだけで許可しないケースがよくあった。同意書が最大のネックだった。
◆住民の同意書は法令に規定がないのに、なぜ行政は提出を要求したのか。
行政は、住民のコンセンサスを得るためだと、きれいごとを言っていた。しかし、その真意は、反対を押し切って許可すれば住民から強烈に責められるのを恐れたのである。保身である。
そこで私は、東産協の機関誌「よろず相談」でだったと思うが、産廃の処理施設の設置許可は、許可要件が充足しているか否かを知事が自ら決定するべきなのに、同意書の有無で決定することは真の決定権を住民に委ねてしまうもので、知事の職権放棄だ、職務からの責任逃れだと非難した。
行政からの住民の同意書の提出要求は「行政指導」である。行政指導は、法令に根拠規定がないので、法令上は提出義務がなく、提出するか否かは業者の任意である。また従わないからといって、不利益な扱いをしてはならないはずである。
しかし、そういうことを知らない業者は、泣く泣く行政指導に従っていた。同意書をまとめるのに3年とか5年かかるケースはザラだった。10年かかったという業者もいた。せっかく土地は買ったのに、諦める業者もいた。
行政は業者が知らないことをいいことに、平気で同意書の提出を強要したのである。義務なき行為を違法に強制されたとして、国家賠償請求でもすればよかったのではないか。(つづく)