「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第3期:1980年代(昭和55年以降)】④』が掲載されました

環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。

芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。

この度、「第3期:1980年代(昭和55年以降)」の
第4回が掲載されましたのでご紹介いたします。

第3期第4回(令和6年7月24日掲載)
「船舶に関する事件の依頼を受けて成功した事例」

 1.事務所の移転
 1978年に水上事務所から独立し、「はやまビル」に移動してから5年後の1983年、現在の銀座5丁目の「御幸ビル」の8階に事務所を移した。今までの3倍広く、家賃は7倍になった。多くの顧問会社からご支援をいただいた。ご支援くださった大勢の皆さまに、心から御礼申し上げます。有難うございました。
 この銀座の事務所に移転してから今日まで、41年になる。
 最初は、弁護士は私一人だったが、麻里弁護士が参加してから飛躍的に充実・拡大した。今では、8階のほかに同じビルの5階も借りて、弁護士は6名だ。3年前から麻里が代表となり、私は高齢で、顧問となった。

 2. 2万5千㌧の大型貨物船を差押えた
 ⑴大型貨物船の差押えの依頼あり
 産廃とは関係ないが、私が最も関心のあった船舶に関する事件の依頼を受けて成功した例があるので紹介したい。
 正確な時期は忘れたが、1981年ごろだったと思う。千葉港で2万5千㌧という大型の貨物船の差押えをして、債務不履行状態にあった債権の回収に関する事件である。同期の友人弁護士の紹介であった。船会社から自分に相談が来たが、船の事件は全然わからないので頼むといわれて引き受けた。
 当時は、まだ民事執行法も民事保全法も制定されていなかったので、船舶差押えの手続は、民事訴訟法の差押手続により行った。
 請求債権を普通の債権として扱うと、訴訟を提起しなければならず、保全手続としては普通の仮差押えとなり、保証金の供託をしなければならない。それを避けるために、もっと強い債権を考えた。「船舶先取特権」である。船舶先取特権なら、「抵当権」と同様、すぐに本差押えができ、保証金の供託も不要だから好都合である。
 ⑵船舶の差押えの実行
 船舶の差押えは、時間との勝負である。というのも、航行中はできず、現に停泊している場所でなければできないからである。数日前から、船舶が千葉港で積荷(材木)の荷揚げををしているとの情報が入ったので、その荷揚げ中に差押えなければならない。積荷を降ろして出港すれば、次は何処に停泊するかわからず、差押えができなくなる。
 私は、徹夜で書類を作って千葉地裁に船舶の差押えの申請書を提出し、裁判官との面接を終えて判断を待ったところ、午後に「決定」をもらうことができた。早速、執行官に強制執行(差押)の手続を依頼して、翌日、執行官と立会人と私のほかに、英語の通訳と依頼者の社員を連れて5名で船舶に乗り込んだ。
 岸壁から船内に入って、案内されて船長室に臨んだところ、幸い船長がいた。執行官が来訪の趣旨を伝え、差押えの書面を渡して、船舶国籍証書を引き渡してもらって帰った。抵抗はなかった。これで差押えは完了した。船の差押えは、船舶国籍証書を引き渡してもらえば完了する。船舶国際証書がなければ、船舶は航行ができないからである(船舶法第6条)。
 この差押えは、たちまち船舶業界に知れ渡った。2万5千㌧という大型船の差押えは、業界にとってはビッグニュースだからだ。
 この船は日本船であった。南米から材木を積んできて、後で知ったことであるが、最初に一部を千葉港に、一部を横浜港に、残りを名古屋港に降ろして完了する予定であったとのこと。
 外国航路の大型の貨物船の差押えなど、弁護士でも経験する人は極めて少ない。私は幸運だった。
 ⑶相手方弁護士から違法だというクレーム
 ところが、差押えの後、相手方船会社の代理人弁護士から驚くべきクレームが入る。この差押えは違法だと。千葉港での停泊は、「運送業務全体の途中」つまり「航行中」にあたり、「航行中」は船舶の差押えはできないから、違法である。最終荷揚げ港である名古屋港での差押えなら適法だという。
 しかし相手方弁護士は、もし千葉港での差押えを早々に取下げるなら、損害賠償請求はしない、債務は全額払う。しかし、取下げが遅ければ損害賠償請求をしなければならなくなると。飴と鞭をちらつかせての談判である。依頼者と相談して、簡単な書面を交わして、支払いを受けて取下げた。結果として、大成功だった。
 相手方弁護士の主張が正しかったか、よくわからない。条文を読めば差押えは可能(適法)であり、違法ではないように読めるが、相手方弁護士の解釈も成り立つのかと、ひねた解釈に感心もした。
 商法の第三編「海商」第一章「船舶」第689条には「差押え及び仮差押えの執行は、航海中の船舶(停泊中のものを除く)に対してはすることができない」とあり、相手方弁護士は、この『停泊中のもの』の解釈で、『途中の港で積荷を荷揚げのための停泊』は、ここでいう『停泊中』にはあたらない、つまり全体としての『航海中』に含まれる、『だから差押えはできない』という解釈だった。苦し紛れの解釈だと思う。
 ⑷相手方のクレームの方が間違いだ
 本来、債権者にとっては、船は何処にいても差押えは可能なはず。それが「航行中はできない」となっているのは、航行の安全の確保と、航行中の船を差押えのために停泊させることは航行に危険であり、船体の確保や曵航上に問題があるからである。しかし、船が何処に行くかは運航者以外にはわからないのだから、常に最終港でしなければならなという相手方弁護士の主張のとおりであれば、債権者の権利行使は、実際上、不可能となる。だから私の差押えは適法・有効なはずである。
 しかし、ここで相手方弁護士と論争して損害賠償請求になれば、それ自体、時間もかかる。早期解決のためには、差押えを解いて弁済を受ける方が利口だと考え、解くことにしたのである。
 相手方は渉外事件専門の大事務所の弁護士であった。海運業界の法的知識も経験も私よりはるかに豊富なので、《違法ではあるが、早く差押えを解くなら損害賠償請求はしない》という提案を妥当として要求を受け入れることにしたのである。
 なぜ、早く解けば損害賠償請求をしないというのか。積荷を降ろすのに数日かかるから、その間は船は動かない。その間は、船舶国籍証書がなくても不便はない、船が出ようとするときに船舶国籍証書がないと困るということ、だから出航前の荷揚げ中に差押えを解けばよいということなのだ。(つづく)

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