「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第4期:1990年代(平成2年以降)】③』が掲載されました
環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。
芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。
この度、「第4期:1990年代(平成2年以降)」の
第3回が掲載されましたのでご紹介いたします。
第4期第3回(令和6年9月11日掲載)
「欠格要件での許可取消しと
盗まれた手形による手形金請求訴訟」
今回も私の事件簿からの紹介である。
1.「懲役刑」の欠格要件は免れたのに、「大株主」という欠格要件で許可取消しとなった社長の話
⑴1976年の廃棄物処理法改正によって、欠格要件制度が設けられた。
欠格要件制度がなかった当時は、不法投棄をして懲役に処せられ、刑の執行を終わったら、翌日からでも許可申請が可能という甘い状況にあった。そういう意味で、欠格要件制度を設けたのはよい改正であった。
⑵私は、欠格要件の相談も受けた。
多くの会社から、役員が交通事故とか飲酒運転やスピード違反などの道路交通法違反を起こしたが、欠格要件は大丈夫かという質問を受けた。
そんな中で、関東のある会社が法人税法違反で起訴されたので、欠格要件は大丈夫かという相談を受けた。知人の紹介で、A社の社長が事務所に来た。社長いわく、会社だけでなく、私個人も起訴されており、懲役刑が求刑されていること、半月後に判決の予定であり、受任している弁護士は廃棄物処理法は全然わからないということだった。
⑶そこで私は、事情を聴いた後、次のように教えた。
一つは、A社長が判決前に早く「取締役」と「代表取締役」を辞任し辞任の登記をして、懲役刑を宣告されたら必ず控訴して、判決の確定を先に延ばして、「辞任」と「判決の確定」との間に「60日以上」を確保することだと。
二つは、社長一人で95%の株式を持っているなら、それも欠格要件だから、奥さんとか子供や兄弟など親戚に早々に分散して、自分の持ち株95%を理想は5%以下だが、せめて10%以下に減らすことだと。それ以上の株を持っていると、「取締役と同等以上の支配力を持っている」という欠格要件に該当するとして許可を取り消される虞があるからだと。
⑷この後、1年後くらいして、またA社長から電話があり、事務所に来て、次のような話があった。
1年前、私の相談を受けた後、すぐに「取締役」も「代表取締役」も辞任して登記もして、地裁の判決を待った。判決は会社も罰金、A社長は罰金刑と懲役1年、執行猶予3年の併科となったので、すぐに控訴した。高裁の判決は、辞任後4か月後だったが、地裁と同じだった。
A社長は、社長を辞任したけれども、毎日会社に出て従業員を指揮していた。後任の社長は奥さんになったが、奥さんは会社の仕事は全然わからないから、全然出社しないで、自宅で専業主婦をしていたとのこと。
高裁判決から8か月くらいになるが、最近ある県から、産業廃棄物の収集運搬業および破砕業、焼却処理業の許可および処理施設の設置の許可を取り消すとの通知が来た。理由は、A社長は懲役刑(執行猶予付き)に処せられて確定しているところ、社長は辞任したけれども、95%の株式を保有していて、会社の取締役と同等以上の支配力を有する者と認められるので、欠格要件に該当するから許可を取り消すということ。そのほか、関東の数県からも許可取消しの通知が来たとのこと。
そこで、何か対抗する方法はないかという相談だった。
私は、社長の株式の分散はどうしたかと尋ねたところ、友人の社長からも聞いたことがあるけれども、株を譲り受ける者が居なくて、そのうちに何とかしようと思っているうちに、そのままになってしまったという話だった。
私は、今となっては欠格要件該当による許可取消処分の対抗方法は全然ないというしかなかった。
2.処理業者が手形を盗まれ、その盗まれた手形金請求の訴訟を提起された例
⑴川崎市に本社のある産廃業者A社の本社に、ある日の深夜数名の盗人が侵入し、金庫や書庫を強烈な道具で破壊して、これから支払期限が来る手形15枚(額面合計約4千万円)と現金150万円を盗んだ。この手形は、A社の産廃の処理費の支払いとして振出しを受けたものである。
翌朝、社長が最初に出社して、ひどく荒らされた様を見てびっくり、早速警察に被害届を出した。現金は諦めるしかないが、問題は手形である。
⑵早速社長から私に電話が来て、今後どうすればよいかというので、必要なアドバイスをした。
①警察に盗難届を提出する。②振出人から支払銀行へ事故届を提出して支払いを止めてもらう。③裁判所に公示催告の申立てをして、除権判決をもらう。
⑶予測したとおり、4か月くらいして、大阪の会社(原告B社)から盗難の被害者A社に対し、東京地裁に手形4枚の計800万円の請求訴訟が提起された。原告B社いわく、手形が盗難に遭ったか否かは全く知らない、原告はC社から商品代金の支払いとして、この手形を善意の裏書で取得したものだというのだった。
⑷しかし、原告B社の本件手形はC社から善意で取得したとの主張は、嘘であった。Cは以前、C社を経営していたが、倒産してB社に経理部長として勤務していた。証人尋問の結果、Cは窃盗犯人から手形を取得した人物を介して手形を入手し、その手形を勤務先の原告B社に裏書譲渡したこと、そのうえで金融機関で割り引いて使おうと金融会社を訪ねたことが分かったのである。
Cが原告B社の資金繰りのために大阪の金融会社に割引依頼で本件手形を持ち込んだところ、金融会社が何か怪しいと感じて、本件手形2枚(500万円)の振出人である東京のX社に電話して、B社が貴社振出しの手形の割引の依頼で当社に来たが、割り引いてよいかとの電話が来たとのこと。X社が、それは当社が産廃の処理費としてA社に振り出した手形で、最近盗難に遭って困っているので、絶対に割り引かないでくださいと回答したという。
そこで、そういう話をX社から聴いた私が金融会社に電話して、B社の連絡先を教えてもらって電話したら、Cが応答した。本件手形を取得した経緯について尋ねたところ、融資依頼をしたら断わられたので、手形は他に譲渡したという話で終わった。そういう経緯を私が裁判所に話した結果、C社もB社も「善意取得」は認められず、本件手形金請求は棄却となった。
手形の盗難の場合は、悪意の立証ができないのがほとんどである。このため、たいてい全額支払うか、高額の支払いで和解となるのが普通である。本件は、悪意の立証ができたレアケースである。(つづく)