「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)】②』が掲載されました
環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。
芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。
この度、「第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)」の
第2回が掲載されましたのでご紹介いたします。
第5期第2回(令和6年10月23日掲載)
「産廃を処理費のやすい市町村の処理施設に隠して搬入した例」
今回も私の事件簿からの紹介である。
1.産廃と一廃の運搬業者が、産廃を一廃の焼却施設に搬入した事件
⑴産廃と一廃の両方の収集運搬業の許可を持つA社が、回収した産廃を産廃の焼却施設に持ち込まず、自社の本社の駐車場に運搬し、市の施設に出入りするための一廃のパッカー車に積み替えて、市の処理施設に搬入することを繰り返した事件があった。
A社は、半年ぐらいこの方法を継続していた。産廃を産廃の焼却施設に持ち込む料金より市町村の焼却施設の方に持ち込む方が半分くらい廉かったからである。
ところが、A社の社長とケンカしてやめていた元従業員が、会社のそのやり方を市の施設に通報したため、市の知るところとなった。
A社のパッカー車が市の施設に廃棄物を搬入してきて、焼却炉に積み荷を降ろそうとしたときである。《ちょっと待て》と言って止めさせ、積み荷を展開させた。
展開した結果、市内の一般廃棄物ではなく、産廃であることが判明した。そこで警察に通報して、産廃を市の設備に搬入しようとしていた現場を確認させた後、運転手に拡げた廃棄物を回収させて持ち帰らせた。以後、警察が取り調べることとなった。
社長が逮捕され、従業員数名や社長が取り調べられ、産業廃棄物の不法投棄の罪で起訴された。
社長は有罪となり(執行猶予)、市から市の一廃の収集運搬業の許可が取り消され、県からは産廃の収集運搬業の許可が取り消された。
⑵私は、社長の弁護人になった。起訴される前に、一般に不法投棄とは、廃棄物を大地または海洋にみだりに捨てて、生活環境を汚染する行為を指すと解釈されているが、本件は産廃を一廃の処理施設の中に投入したから投入自体は違法ではあるが、生活環境の汚染は生じていないから、不法投棄には当たらないのではないかと検察官に疑問を呈したものである。
それに対して検察官は、産廃を一廃の処理施設に投入すれば不法投棄に当たる、一廃と産廃を混ぜて、一廃の施設に投入すれば、不法投棄に当たるという最高裁の判例があるので、そんな形式的な主張では全く揺るがないよとの説明を受けたことがあった。
そこで、その判例を調べてみた。その事件では、環境汚染の有無は論争になっていなかったが、「違法な処分行為」が不法投棄に当たると認定されたと解釈した。
要するに「不法投棄」とは「違法な処分行為」ないし「不適正な処分行為の総称」であり、環境汚染をすることが絶対ではないということである。
以下に、その最高裁の判例を紹介する。
2.産廃の汚泥を市町村の処理施設に持ち込んだ事件
【最高裁判所 2006年2月28日 決定】判例時報1926号P.158
【事案】:一般廃棄物の収集運搬の許可業者が、一般廃棄物たるし尿を含む汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を一般廃棄物と装って、市のし尿処理施設に搬入した行為の不法投棄罪の成否。
【判示】
⑴Xは廃棄物処理法に基づき、「し尿浄化槽汚泥、ビルピット汚泥(但し、し尿を含むものに限る)」についての一般廃棄物収集運搬業の許可、および「汚泥(有機性に限る)の積替え保管を含む」等についての産業廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者である。
⑵Xは、福岡市庁舎の2002年6月と12月に行われる2回の庁舎内汚水槽および雑排水槽からの汚泥の収集、槽内清掃作業を入札により受注した。
作業内容は、以下の通りである。
庁舎内の汚水槽7か所と雑排水槽18か所から汚泥を収集して清掃し、庁舎内の水洗トイレからのし尿を含む廃水の流れ込む「汚水槽」の汚泥は「一般廃棄物」として一般廃棄物用のバキュームカー(以下「汚水車」という)で収集して、し尿処理施設である福岡市中部中継所(以下「本件施設」という)へ、庁舎内の雑排水の流れ込む雑排水槽の汚泥は「産業廃棄物」として産業廃棄物用のバキュームカー(以下「産廃車」という)で収集して中間処理業者へ、それぞれ搬入する。後者の汚泥については、上記中間処理業者による焼却等の中間処理を経た後、その委託する処理センターにおいて最終処分(コンクリート固化等)する。
⑶Xは上記2回の作業の際、いずれも収集の段階から「汚水車」、「産廃車」の区別なく、汚水槽の一般廃棄物たるし尿を含む汚泥と雑排水槽の産業廃棄物たる汚泥とを混合して収集し、その混合物の大半(1回目が約16.86㌧、2回目が約17.53㌧)を一般廃棄物たるし尿を含む汚泥として、上記中間処理業者へ搬入した。
なお本件施設では、搬入に際し、職員の立ち会いによる収集運搬業者の搬入物の確認等の手続きはとられていないが、収集運搬業者は、運搬に使用する車両ごとに付与されたIDカードを読み取り機械に差し入れることにより識別された後、搬入棟の受入口からし尿等を搬入し、その後自動的に計量された搬入量等が印字されたレシートを受け取るという仕組みになっている。
受入口から搬入されたし尿等は、夾雑物が除去されるなどの処理を経たうえで、福岡市の水道処理施設でもある中部水処理センターに配管を通じて圧送され、同所で最終的に処理することとされている。
⑷上記2回にわたる本件施設への搬入行為が、本件で廃棄物をみだりに捨てた行為として起訴されたのである。
以上の事実関係によれば、Xの従業員は一般廃棄物以外の廃棄物の搬入が許されていない本件施設へ一般廃棄物たるし尿を含む汚泥を搬入するよう装い、一般廃棄物たる汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を上記受入口から搬入したものであるから、その混合物全量について、法16条にいう「みだりに廃棄物を捨てる」行為を行ったものと認められ、不法投棄罪が成立する。
よって被告人らに対し、不法投棄罪の成立を認めた原判断は正当として是認することができる。
この事案も、生活環境の汚染はない事案である。
結局、この判例から分かったことは、不法投棄とは生活環境を汚染することが絶対ではなく、それは不法投棄の一つの態様にすぎず、広く違法な処分行為を指すと理解した。(つづく)