「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)】④』が掲載されました
環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。
芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。
この度、「第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)」の
第4回が掲載されましたのでご紹介いたします。
第5期第4回(令和6年11月27日掲載)
「産廃処理と処理施設の許可の変更制度の問題」
1.産業廃棄物処理業(営業)の許可の変更制度
商売をして繁盛すれば、誰でも車を増やしたり設備を大きくして、商売を拡大したくなるものである。営業を拡大したい場合、処理業ではどうするか。廃棄物処理法では、これを「営業の許可の変更」と捉え、都道府県知事の許可を受けなければならないとしている。環境に負荷を与えるおそれがあるからである。
「事業の範囲」とは、取り扱う「廃棄物の種類」と「処理の方法」を指す。例えば、「廃油」の焼却の許可を持つ業者が「木くず」も焼却するのは「種類の追加変更」であり、廃プラの「破砕」をしている業者が同じ廃プラの「焼却」をする場合は「処理の方法」の変更となる。
廃油の焼却炉を1基から2基に増やすとか、車を増やすのは、「廃棄物の種類」にも「処理の方法」のいずれにも当たらないので、許可を得る必要はなく、単なる「変更届」で済む。
2.産業廃棄物処理施設の許可の変更制度
産業廃棄物処理施設(「処理施設」)については、以下の4項目について変更する場合に、許可を受けなければならないとされている。
①処理施設で処理する産廃の種類
②処理施設の処理能力(最終処分場の場合は、埋立処分の面積と埋立容量)
③処理施設の位置、構造等の設置に関する計画
④処理施設の維持管理に関する計画
◆「軽微な変更」
処理施設の変更でも「軽微な変更」の場合は、許可不要とされている。例えば、処理能力が10%未満などである。営業(運搬業と処分業)の許可の変更については、そういう規定がないので、常に変更の許可を受けなければならない。
3.変更された営業の許可の期間は、いつから起算するか
営業の変更が許可されたら、変更された許可の期間は、元の許可の日から起算されるので、要注意だ。例えば、2022年2月1日に「廃油」の焼却処理の許可を受けた業者が、2024年5月1日に「木くず」の焼却の追加的変更の許可を受けたとすると、木くずの許可の許可期限は、2022年2月1日から5年目の2027年2月1日となる。そのため、許可の更新を申請するなら、2027年2月1日を期限として申請しなければならない。
なぜそうなるかというと、一つには変更の許可は元の許可の延長という見方であることと、二つには営業の許可には有効期限があり、更新制度が布かれているからである。厚生省の質疑応答での回答にも同旨の記述がある。
処理施設の許可については、有効期限が元々ない。また、更新制度もないから、処理施設の変更の許可の日付は、次々と変更のたびに改まることになる。
4.許可の変更制度では、何が問題となるか
⑴見解の相違があること
変更の許可を受けなければいけないかという点について、業者は「前処理」の変更だから不要だとか、処理の工程には影響のない部品の交換だから不要だなどと解釈して、許可申請を省く例が多い。それが後で立入検査で修理したことがバレて、事業停止処分になったりする。事前に行政に相談した方がよいと思う。
処理の種類や処理の方法または施設の変更許可の申請が出た場合の行政の審査の仕方は、新規の許可申請の場合と同じである。事業を的確に継続できるだけの経理的基礎を保有していることや、欠格要件の不存在も許可要件となる。許可とは直接関係ないが、地域の住民と公害防止協定を結んでいる場合には、変更の場合も協定を結び直すことを求められている。また、生活環境の影響調査も改めて行うことになる。
⑵審査に時間がかかるのが難点
現在は、どの自治体も標準処理期間を設けているために、期間を遵守するために懸命に許可申請を受けた後の審査を進めているようである。
標準処理期間は、自治体ごとに少々異なる。ある関東の自治体では、焼却施設や最終処分場の変更許可の場合は、180日~250日、その他の施設は60日~90日とされている。しかし、本当にこれだけの日数で済むならよいが、標準期間に入る前に、多くの自治体では事前協議をする。その事前協議の日数は標準期間には入っていないので、全体として随分長くかかるようである。
処理業者が営業や施設を変更するのは商機の問題があるので、行政はできるだけ短期間で結論が出るようにすべきである。
5.無許可で変更した場合の行政処分と刑罰
変更の許可を受けずに無断で営業の許可を変更して営業した場合は、事業停止処分または許可取消処分を受ける。しかし、必ずしも常に刑罰を受けるとは限らない。
無許可で変更しても、起訴されるのは、多くは行政から告発された場合である。行政からの告発なくして無許可変更で起訴されるのは、不法投棄を伴うなどの悪質な場合である。前回述べた硫酸ピッチの甲社・乙の例である。なお、処理施設の無許可変更の場合は、「不正の手段によって変更を受けた場合」だけが刑事罰を受けることになっている。(第25条第1項第3号)
無許可変更をしたうえ、営業もした場合、無許可変更と無許可営業の2本の罪にならないか。
ならない。無許可変更の一罪だけである。なぜなら、無許可変更の罪は、構成要件が「第14条の2第1項…に違反して収集・運搬又は処分の事業を行った者(第25条第1項第3)」とあり、実際に営業したことまで含む扱いになっているからである。また両罪は刑罰が全く同じだからでもある。
6.行政処分に対する取消訴訟で注意すること
事業停止処分を受けた場合に取消請求の訴えを提起するときは、合わせて国家賠償法による損害賠償請求もしておく必要がある。
なぜかというと、停止期間は3か月が多いが、その事業停止処分取消請求の訴訟の継続中に停止期間が過ぎてしまって、取消しを求める対象がなくなり、訴えの利益がないとして訴えが却下されるからである。実は、私が事業停止処分の取消請求の訴えを提起した事件で、損害賠償請求を失念して、裁判所から釈明処分を受けて、請求を追加した経験があり、冷や汗ものだった。
行政処分を受けた日から3年以内に損害賠償請求の訴えを提起しないと時効にかかるので、要注意である。(つづく)