「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)】⑤』が掲載されました

環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。

芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。

この度、「第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)」の
第5回が掲載されましたのでご紹介いたします。

第5期第6回(令和6年12月11日掲載)
「プラスチックごみの対策と
硫酸ピッチ不法投棄事件」

 1.プラスチックごみの対策
 (1)現在、身近な廃棄物の中で、人や生物に大きな被害をもたらしているのがプラスチックごみ(プラごみ)である。
 プラごみは、廃棄物としての処理も困難、資源化も困難 埋めても永久に分解せず、土にも還らぬという厄介ものである。海でも陸でも、動物や鳥がこれを食べて死ぬという被害を受けている。プラスチックを作った人間さえも被害を受けており、全く始末の悪い物質である。そのため、プラごみの発生抑制、資源化は絶対であり、急務である。
 (2) プラごみについては、その発生抑制だけでなく、減量化と資源化の政策を奨めるべく、わが国では2021年 に「プラスチックに係る資源 循環の促進等に関する法律」(プラスチック新法)が制定され、2022年の4月1日から施行されている。
 (3) プラごみの対策としては、資源化も必要であるその資源化よりも「発生抑制」が最良の方法だと考える。私がいう「発生抑制」とは、プラごみの発生抑制ではなく(それも必要であるが)、それ以前のプラスチック製品を作ること自体の抑制をいう。なぜかというと、プラスチック製品を作った後で、ごみとなるのを抑制することは効果が薄いからである。また、プラごみの資源化といっても、その前提として、理想は100%回収であるが、現在の回収割合は10%ぐらいだというから、今後努力しても20%ぐらいにはなるだろうが、廃棄物の資源化という対策は、回収の段階であまり成功しないように思う。やはりプラスチックの製品をそもそも製造しないことが減量化への手っ取り早い効果的な方法である。
 「文明の発達は人類を不幸にした」という昔の偉人の言葉が思い出される。プラ製品は文明の産物である。化学製品に頼る生活は、いつかは化学製品の被害を受けるであろう。プラ製品の生産を抑制しないと、人類はいつかはプラ製品とプラごみだらけの中で 被害を受け、苦しみ、もだえていくのではないだろうか。 プラ新法のもとでは、プラ製品の生産自体を抑制する方向での政策展開を期待したいものである。

 2.硫酸ピッチの不法投棄事件
 私の事件簿から紹介する。
 (1) 1999年に、不正軽油の密造工程で生成される硫酸ピッチの入った大量のドラム缶を千葉県から富士山の裾野の荒涼たる土地に運搬し、埋立処分した不法投棄事件があった。見るからに危険で怖そうな廃液である。
 私は、本件に関与した甲社の社長の刑事弁護の依頼を受けた。他に約15名が関与し、逮捕・起訴された。別々に起訴されたので、他の人の犯罪事実はよく分からないが、無許可の業者や素人が多数駆り出されて、ドラム缶の埋立用の穴掘りと運搬と埋立処分を実行したのである。
 (2)硫酸ピッチの排出事業者は極秘の内に処理したいとの考えであった。知人に産廃業者甲社を紹介してもらって、硫酸ピッチの処理を頼んだところ、甲社は焼却はできないといって、乙(個人営業)に相談したところ、乙が廃油の焼却処理をしている丙社を紹介した。甲社・乙・丙社の三者が排出事業者方に集まって、両社が焼却することとし、甲社が先に搬出し、乙が甲社から引き取って丙社まで運搬するという契約がまとまった。書面は作らなかった。
 (3)甲社は、普通の産廃運搬業の許可は持っていたが、硫酸ピッチが該当する特管産廃の運搬業の許可はなかった。しかし、この仕事はいい金になると思って引き受けた。
 まず、硫酸ピッチ入りのドラム缶を排出事業者の工場から自社の資材置き場(埼玉県) まで搬出した。この搬出は、1999年の1月から翌年の8月まで、170回にわたって行われた。ドラム缶約2500本である。
 (4)そこへ乙が、甲社の資材置き場にドラム缶を引き取りに来て、搬出した。
 ところが乙は、契約した丙社の焼却施設へは持って行かず、自分の資材置き場(埼玉県)に搬入した。乙は、特管産廃の運搬業の許可は持っていた。
 なぜ乙は、一度契約した丙社の工場に運搬せず、自分の資材置き場に搬入したかというと、乙と丙社の共謀があったようだ。
 (5)丙社は、いったんは焼却を引き受けたものの、自分の焼却炉では性能が低くてできないことが分かったので、乙と共謀して、不法投棄することにした。排出事業者は焼却処理したとする虚偽の管理票を偽造して、処理費をもらって済ますことにしたのである。排出事業者は管理票が揃っていれば不審に思わないだろうと考えた。
 (6) 乙の資材置き場には、乙や丙が頼んだ無許可の業者たち12名が夕方に何台かの大型のトラックでやって来て、乙が彼らのトラックにドラム缶を積み込んで、数十回搬出させた。
 乙と無許可業者たちの共謀で、硫酸ピッチの捨て場所として、富士山のすそ野の人目の付かない場所数カ所に大きな穴を掘り、不法投棄したのである。
 (7)埋立処分が終わりに近づいた頃、約2300本を運んだところで発覚した。民間からの通報で警察の捜査が 入った。
 私は甲社社長の弁護人として、勾留されている警察署に何度も接見に通った。甲社社長が起訴事実を認めたので、私は情状だけの弁護となった。ただ甲社は、乙と丙社の共謀による不法投棄や管理票の偽造には関与していないこと斟酌されたいと弁護し、認められた。
 甲については、積替え保管と特管物の運搬業の許可なくして1年8カ月もの間、当該行為を行ったのは無許可変更の罪に当たると認定された。甲社は罰金500万円、社長は懲役1年半(執行猶予3年) と罰金150万円となった。ちなみに乙は、地裁では懲役3年と罰金300万円の実刑になったと聞いたが、控訴したかは知らない。
 (8)後に排出事業者も起訴されて有罪になり、起訴された者全員、措置命令を受けたが、みな措置命令を履行できず、行政が代執行をした。その後、行政から関係者一同に連帯責任として処理費 (代執行費用)の請求を受けたが払い切れず、甲社の社長は月に数万円ぐらい、分割で払っていたようである。
 (9)2004年に、相次ぐ硫酸ピッチの不法投棄に対処するため廃棄物処理法が改正された。硫酸ピッチの保管・ 運搬・処分は、政令で定める基準に従って行うこととされ、それ以外の方法で行ったら処罰されることになった。(つづく)

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