「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第3期:1980年代(昭和55年以降)】①』が掲載されました

環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。

芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。

今回から「第3期:1980年代(昭和55年以降)」と表題を改め、
この度、第1回が掲載されましたので、ご紹介いたします。

第3期第1回(令和6年6月12日掲載)
「廃棄物の増加、多様化とともに不法投棄が社会問題に」

 1.1980年当時の社会・経済状況
 廃棄物の発生および処理の観点から見た1980年当時の社会・経済状況は、相変わらず大量生産・大量消費・大量廃棄の生活が常態であった。廃棄物の増加や質の多様化がますます進むとともに、不法投棄が社会問題化し、中間処理施設や最終処分場の不足が深刻化するなど、廃棄物に関するさまざまな問題が発生していたと思う。そのため、産業廃棄物(以下、産廃という)の発生そのものを抑制するよう喧伝され、多くの問題が指摘された。
 処理業者だけでなく排出事業者による不法投棄、最終処分場の逼迫、廃棄物の海への不法投棄と海洋汚染、ゴーストネットにひっかかったり、プラスチックごみを食べたことでのウミガメやクジラや魚や鳥が死ぬなど、地上も海も廃棄物による被害の話題が噴出した。

 2.排出事業者の自己処理責任制度と補完的制度
 廃棄物処理法のもとでの産廃の処理の原則は、排出事業者の自己処理責任とされた。排出事業者が自ら運搬し、焼却などの処理を行い、そこで生じた燃え殻などを自身で最終処分場を造って、埋め立てる責任があるとされている。
 一方、排出事業者が自らできないときは、運搬も処理も最終処分も許可のある産廃業者に「代行」を委託して行ってもよいとされた。これはあくまで補完的制度であり、排出事業者の自己処理責任制度とは独立の対等の制度ではない。ただし、産廃処理施設の設置行為それ自体は、「代行」とはいえないだろう。「代行」というためには、「委託」を受ける必要があるからである。

 3.なぜ排出事業者に産廃の処理責任があるか
 論拠については、いろいろな言い方がある。
 ①ごみは、それを排出した本人が処理するのが当然だ。不法投棄をすれば損害を補てんする義務がある。工場の廃液や排出ガスで健康被害を与えた場合を想起せよ。
 ②産廃は製品生産の副産物であり、生産する事業者こそ産廃の排出の仕組みと成分について最もよく知る者であり、産廃を処理する最適の立場にある。
 ③汚染者負担の原則(Polluter Pays Principle、略称PPP)。
 環境汚染物質を排出する本人(事業者)には、汚染の防止費用や浄化費用を負担する義務がある。
 経済協力開発機構(OECD)が1972年5月に採択した「汚染者支払原則」は、日本では「公害発生費用発生者負担の原則」として一般的に定着している。

 4.産廃業者の義務
 産廃業者には、事業者と委託契約を結ぶことで、適正に処理する契約上の義務が発生する。産業廃棄物処理法でも、産廃業者としての資格や業務上の一般的な義務が規定されており、排出事業者から要求されなくても遵守しなければならない。
 たとえば、産業廃棄物処理基準の遵守、無許可営業の禁止、再委託の禁止、マニフェストのルールの遵守義務などである。
 産廃業者は契約上の義務違反については行政上および刑事上の責任は問われないが、廃棄物処理法上の義務違反については行政上および刑事上の責任が問われる。

 5.産廃業の三つの業種
 産廃処理の業種には、運搬業・処分業(中間処理業)・最終処分業の三業種がある。産廃の処理は、普通、これらのコースを全部通過することで完了する。
 ⑴運搬業
 産廃の運搬業は、産廃の発生場所または保管場所から処理施設まで安全に運転して産廃を届けるのが仕事である。運搬業者の経営の成否は運転手にかかっている。不法投棄を目的とする収集と運搬も処罰される。
 運搬業は、廃棄物処理法では、正式には「産業廃棄物収集運搬業」というが、産廃には「収集」という用語は不要だと思う。一般廃棄物については、生活様式の異なる多数の住民のゴミを、市町村がいかに迅速かつ衛生的に回収するかについて「収集の方式」が昔の汚物掃除法や清掃法の時代から研究され、社会生活の様式の変化に応じて何度も改良されてきたし、これからも改良されていくだろうから、「収集」という仕事が独自に問題になるが、産廃の場合は業者が個別に回収に回るから、「収集」は問題とならないと思う。
 ◆傭車
 運搬業では、当時「傭車」という形態が流行した。トラックを増やしたい運搬業者が増やす方法として、トラックを持っている男をトラック持参で雇い入れるのである。この点について、私は運搬業者から質問を受けた。
 質問:傭車は、廃棄物処理法上、適法か違法か、採用しても大丈夫か。
 私の回答:問題は、会社が無許可の男に、脱法的に産廃を「再委託」していないかにある。そこで、彼を会社が従業員として雇用する雇用関係と、会社がトラックを賃借する旨を明確にした契約を結ぶことだと助言した。
 雇用契約では給料や雇用保険等を明確にし、車の賃貸借契約では、賃借料と燃料代などの負担者と、車の購入代金や保険料の負担者を明確にすることだと。
 ⑵処分業
 処分業は、都道府県知事の許可を得た産廃処理施設を造って、運搬業者が運搬して来た産廃を焼却するなどの最終処分のための準備としての処分を行う業務である。「処理業」ともいわれる。
 処分方法には、破砕、圧縮切断、焼却、肥料化、堆肥化、飼料化、中和、油水分離、脱水、乾燥等々、多数ある。最終処分の前の段階の処理をするので、「中間処理業」ともいわれる。産業廃棄物処分業という「事業者」でもある。このため、処分業から生じる廃棄物については、「排出者」としての処理責任がある。
 ⑶最終処分業
 最終処分業は、焼却などの中間処理を経た残渣を埋め立てるなど、地球に還元する最終的な処分を行う業務である。最終処分としては、埋立処分と海洋投棄処分がある。
 埋立処分のためには、最終処分場を造らなければならない。最終処分場は大地と一体となり、掘り返すことを予定するものではない。最終処分は、地球に還元するための処分であるから、願わくば埋立処分した廃棄物が土と化すことである。ところが、安定型処分場に埋め立てる産廃は、がれき類や廃プラスチック類など、性状が変化しない物ばかりであるから、土と化すことは期待できない。
 また管理型処分場では、処分場の底面や周囲の壁面の全面にわたってビニールシートを敷いて、産廃が大地と混ざり合わないように遮断する埋立方式であるから、そもそも大地に還元されることはない。(つづく)

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