「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第3期:1980年代(昭和55年以降)】③』が掲載されました

環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。

芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。

この度、「第3期:1980年代(昭和55年以降)」の
第3回が掲載されましたのでご紹介いたします。

第3期第3回(令和6年7月10日掲載)
「97年法改正まで行政は行政指導を業者に押し付けた」

 1.行政指導に対する抵抗:《指導要網を要件にするな》
 行政指導をめぐって、「訴訟」にまで発展した事案は経験しなかったが、行政との「交渉」の例は多数あった。以前にも話した同意書に押されたハンコの印鑑証明書の提出の件もしかりであるが、次のような交渉の例もあった。1981年ごろと思う。
 ◆A県内にB社が新設する産廃の最終処分場が許可される見通しになった頃、C県の産廃業者D社が、C県で排出される産廃をA県内のB社の最終処分場に搬入したいという要望があることをB社がA県の担当者に相談したところ、A県の担当者からB社に対し、次のように要請があったとのこと。
 A県:他県の産廃をA県の施設に搬入するにはA県と協議してA県の承諾が必要になる。A県の規則(指導要網)では、他県の産廃は10分の2となっているので、それを許可の条件として許可証に記載したい。了解してもらいたい。
 私:数日後、私はA県に行って回答した。
 A県の指導要網の条項を許可証に、「許可の条件」として記載することは断る。理由は、許可の条件にすると条件に違反した場合に、許可取消の理由とされるからだ。指導要網を「許可の条件」にしてしまうと、本来指導要網に従うか否かは自由のはずが、許可の条件にされることでそれを強制されることになる。
 このように回答したところ、行政が了解し許可証の条件にすることはやめるとなった。私の交渉が成功した。

 2.行政指導とは何か
 前回、行政指導について触れたが、中途半端に終わったので補充する。
 ⑴行政指導の法的意義
 行政指導とは、行政機関がその業務のために、許認可の申請者に対して、一定の行為をすること、またはしないことを要求するための指導、勧告、助言等のことである。
 1993年に「行政手続法」が制定され、行政指導の在り方や法的効力について規定された。その影響もあり、自治体は少し手を緩めたかもしれないが、業者からはそこまでわからなかった。1997(平成9)年に廃棄物処理法で処理施設の設置の許可手続が大幅に改正されるまでは、行政は強く行政指導(住民の同意書をもらうこと)を業者に押し付けたものである。
 行政手続法がなかったため、処理業者は許可申請において、行政指導の違法を指摘して拒否するには「法治主義」の解釈を根拠とするしかない。しかし、明文の規定なくして、法治主義の解釈だけでは根拠が薄弱で自信がなく、泣き寝入りする方が多かった。
 ⑵指導要網の作成
 行政指導は、特段の根拠なく口頭でする場合と、指導要網を踏まえてする場合がある。自治体はよく指導要網を作った。そのため「要網行政」といわれた。
 指導要網は「条例」ではなく、自治体の部・課が行政の便宜のために作る内部規則にすぎない。正しい行政指導とは、行政の要請に従うか否かは自由であることを明示したうえ、行政の要請に協力してほしいと要望することである。
 ⑶行政指導の法的効力
 どうしても義務付けたいのであれば、立法化すればよい。国民が知らないことをいいことに強要し、従わないからといって不利益な取扱いをすることは許されない。もし強要すれば、法治主義に反して違法となる。場合によっては、国家賠償責任に問われる(国家賠償法)。
 行政手続法第32条には、「行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、行政指導があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。行政指導に携わる者は、相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」とある。自治体の行政手続条例にも同様な規定がある。
 公務員は、指導要網に基づいて手続を要請していると、それが正式の法令のように錯覚して、国民に強要する虞があるので、法令と指導要網を明確に認識する必要がある。

 3.行政指導に関する判例
 行政指導に関する判例を紹介する。
【判例:宇都宮地裁1991年2月28日判例】判例タイムズ764号
 ◆産廃業者Aが栃木県知事に対し、1989年に廃棄物処理法第15条第1項に基づいて最終処分場の設置の届出をしたところ、知事がその届出書の受理を拒否して、業者Aに届出書を返戻した。そこでAが、知事のした届出受理の拒否処分の取り消しを求めて出訴した。
 ◆知事はAに対して、設置届の前から、《最終処分場の敷地から500㍍以内の区域に居住する者の3分の2以上の同意書の提出をすること》と指示していた。Aは、付近住民の同意書を取得するため努力し他の許可要件は全部充たしていた。
 ところが、行政が指示した範囲内の住民は2人しかいなかったが、そのうちの1人が同意し、1人が反対したため、全体として、同意書の提出が不可能となり、事前協議の審査がまとまらないことが明らかになった。そこで、Aは事前協議は諦めて、1989年7月に本件「設置届」を知事に提出したところ、知事が同年9月にAに「届出書」を返戻し、設置届の受理を拒否したという経緯である。
【裁判所の判断】
 「国民の具体的な権利義務に直接影響を及ぼす行政処分は、法治主義の原則により、法律(法律ないし条例等、法律に準ずるもの)の定めに従って行われなければならず、行政機関が内部規則として自ら定めた指導要網等の行政指導のための準則は、法律等の委任を受けたものでない限り、行政処分の根拠となりえないものであり、このような行政機関の内部規則に基づいてなされる行政指導は、当該指導の相手方の任意の協力のもとになされる非権力的な行為であって、相手方に強制し得るものではない。
 本件において、被告知事の行政指導の根拠となった旧要領および新要網が、法律等の委任を受けて制定されたものでないことは明らかであるから、旧要領および新要網に基づく行政指導も、あくまで相手方の任意の協力を期待してなされるものであり、その規定する要件を相手方に強制しえないというべきである。
 事業者が適式な「設置届」を提出するなどして、もはやこれ以上、行政指導には従えないとの意思を明確にした以上、行政指導を強制することはできず、よって本件届出の受理の拒否処分は違法であり取り消す」という。(つづく) 

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