「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第4期:1990年代(平成2年以降)】④』が掲載されました

環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。

芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。

この度、「第4期:1990年代(平成2年以降)」の
第4回が掲載されましたのでご紹介いたします。

第4期第4回(令和6年9月26日掲載)
「最終処分場に対する
住民の反対運動と行政の対策」

 1.頻発する最終処分場に対する反対運動
 ⑴最終処分場に対する反対運動
 1980年代以降、産業廃棄物の最終処分場の設置の許可申請に対する住民の反対運動が全国的に展開された。計画地周辺ではもちろん、県庁前や街中をデモ行進までして激しく反対運動をする例から比較的静かな反対運動まで、いろいろな態様の反対運動が頻発し、その一環として仮処分申請も多くなった。
 私は幸か不幸か、当時そういう仮処分申請をしたこともなければ、住民から仮処分申請を受けた会社の代理人になったこともなかった。
 ⑵建設差止めや操業差止めの仮処分申請と裁判所の容認の主な理由
 前にも仮処分申請を容認した裁判所の「決定」を紹介したが、もう一件、この時期の裁判所が認容した事件を紹介しよう。
 【水質汚濁のおそれありとして、仮処分申請が容認された事例】
 仙台地裁1992年2月28日決定 判例時報1429号

 本件最終処分場は、業者が1989年に宮城県に届け出て受理された安定型最終処分場である。届出制の時代である。この処分場の用地は、業者の自己所有土地である。
 届出によれば、本件処分場は設備としては処分場の周囲に擁壁・堰堤を巡らせたうえ、集水管や調整池等の付属設備を設けることとされている。処分場設置工事は1989年12月に着手され、すでに完了している。
 埋立方式は、素掘りの穴に廃棄物を投棄し、その上に覆土するという単純なものである。
 ◆仮処分の申立人は住民421名。
 申立人(住民)は、水質汚濁、地盤崩壊、交通事故発生、農業用道路崩壊の差し迫った危険があることを理由に、平穏生活権、人格権もしくは財産権に基づく差止請求権または不法行為の差止請求権を被保全権利として、本件処分場の操業の差止めの仮処分を申請した事案である。
 ◆本決定は、仮処分を要求する権利として、「人格権」を認めた。
 人は人格権の一内容としての身体権の一環として、生存・健康を損なうことのない水を確保する権利、および人格権の一内容としての平穏生活権の一環として、適切な質量の生活用水、一般通常人の感覚に照らして飲用・生活用に供するのを適当とする水を確保する権利を有するとした。
 そして、これらの人格権の重大性に鑑み、本件においては、右権利の保護を本件処分場の公共性や業者の本件土地を利用する利益よりも優先されるべきであるとして、住民の申立てを容認し、債務者は本件最終処分場を使用、操業してはならないとの決定を下した。

 2.住民の反対運動に対する行政や立法の対策
 ⑴住民の反対運動に対する行政の対策
 住民の反対運動に対して、行政はその場その場での対策はとれなかったと思う。
 業者は、行政が介入してくれて条件付きであれ、許可してもらえるなら歓迎であろうが、住民は絶対反対であるから、介入できるはずがない。行政は基本的には、住民の味方だったと思うが、他方で、行政は中立であるべきだという発想もあったと思う。また、住民が軟化して、処理施設が許可できて増えることを望む気持ちもあったように思う。行政が個々の施設に介入できるとすれば、住民たちが、公害防止協定などを結ぶことで合意できる雰囲気のある場合である。
 環境省は、住民の反対運動の影響で処理施設の建設が少なくなり、最終処分場が逼迫するのを思案したあげく、処理施設や最終処分場の設置の許可申請と審査の仕方には、周辺の環境に対する配慮が欠けていたことを反省し、1997年に廃棄物処理法を改正した。
 ⑵1997年の廃棄物処理法の改正
 許可制度に関する主な改正は①処理施設の設置者に対して、生活環境影響調査の実施を義務付け、②行政に対し、最終処分場と焼却施設の設置の許可申請においては、申請書等の告示・縦覧の義務付け、③利害関係人の意見聴取の義務付け、④専門的知識を有する者からの意見聴取などの義務付け、⑤生活環境の保全上関係がある市町村長からの意見聴取などを許可要件に追加することである。
 ⑶改正の効果
 この改正の結果、反対そのものはなくならないが、デモ行進や仮処分申請が随分と減少し、処理施設の許可件数が多くなった。
 また都道府県が従来、住民の同意書の提出を要請していたのを取り止めて、そのかわり業者に対し計画地の一定範囲(行政が指定する)の住民に対し、説明会を開いて、最終処分場や処理施設の計画について詳細な説明をすることを要求するようになった。
 説明会に代わったことは、業者にとっては随分助かったといえる。同意書の取りまとめは、非常に困難だったからである。
 ⑷説明会ではどんなことを説明するか
 説明会では、計画している最終処分場や処理施設の種類や規模、取り扱う産廃、処理方法、施設の処理能力、生活環境への影響の程度、飲料水への影響、騒音、振動、粉塵の発生の有無、臭気、廃棄物を積んだ車の1日の台数、車の経路、毎日の操業の開始と終わる時間等々について説明する。
 私も業者に頼まれて説明会に出て説明したこともあったが、絶対反対の雰囲気では弁護士の説明でも住民の姿勢に影響はない。
 ⑸説明会を開く意義
説明会を開く意義は、同意を得ること自体にあるのではなく、業者が計画を十分に説明して、理解してもらうよう誠意を示したことを行政に理解してもらうことにある。説明会を開いて、住民の同意が得られるに越したことはないが、理解が得られないとしても、嘆く必要はない。住民が一人も来ないなど、説明会自体が成り立たないこともあるが、それを悲観してはいけない。
 ⑹廃棄物処理法は1991年の改正で、届出制度を許可制度にした。その許可制度は、許可要件が充足しているときは、たとえ住民や地元自治体が反対しても許可しなければならない制度である(「羈束裁量」という。要件が充足していても許可しなくてもよい制度を「自由裁量」という)。理論的・最終的には、許可申請においては、許可要件の充足は絶対である。許可要件の不足では話にならない。
 ⑺処理業者も周囲の住民と仲良く交流してこそ繁盛し、発展するものである。
 許可後は法律の理屈は後回しにして、できるだけ住民や地元自治体の意見にも配慮し、仲良くするように努めることである。(つづく)

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