「環境新聞」に弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~【第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)】③』が掲載されました

環境新聞にて、令和6年1月17日より隔週連載されております、
弊所顧問弁護士芝田稔秋執筆『産廃と私~弁護士50余年の歩み~』が掲載されました。

芝田稔秋が弁護士になるまで、そして、弁護士として50年以上廃棄物処理法に
携わってきた半生を、1年間に亘って連載されます。

この度、「第5期:2000年から現在まで(平成12年以降)」の
第3回が掲載されましたのでご紹介いたします。

第5期第3回(令和6年11月13日掲載)
「排出事業者の真の責任を看破することが必要」

1.排出事業者の措置命令
 ⑴排出事業者に対する廃棄物処理法の責任の強化
 排出事業者と処理業者の責任を強化するために、廃棄物処理法は何度も改正された。特に排出事業者については、処理業者への委託の仕方、契約書の作成の仕方、管理表の作成と交付と回収、管理表による最終処分の確認の義務、処理業者の処理の状況の確認への努力義務など、多数の義務が追加して課されることになり、違反行為に対しては刑罰が科されることになった。
 ⑵排出事業者の究極の責任:措置命令はどうなったか
 では、排出事業者が委託した処理業者が不法投棄した場合、排出事業者に対して原状回復責任を追及するべく措置命令を出せるのか。
 上記のような刑罰を科しても不法投棄物は、そのまま残る。また処理業者に対する措置命令はといっても、ほとんどが倒産や行方不明で、確知できない。そこで、なんとしてでも排出事業者に措置命令を出さねばならない。排出事業者には委託者としての究極の責任があると思う。どうすれば、排出事業者に措置命令を出すことができるか。
 第1は、排出事業者の側に委託契約における違反行為がある場合とか、管理票の作成、交付、回収などの事務における違反行為があった場合(法第19条の5第1項第2号、3号)である。
 第2は、処理業者の資力では原状回復が困難である場合において、排出事業者の側に契約に違反がなくても、排出事業者が適正な処理費を負担していなかったときなどである(第19条の6)。
 ⑶現実の力関係を重視すべし
 一般に、廃棄物処理の委託契約では、仕事を発注する排出事業者の立場が強い。このため処理業者は、排出事業者の言いなりになるのが実情である。料金の設定などで、《今後も仕事を出すから廉くしろよ》などといわれて、廉い費用を押し付けられる場合が多い。
 暴力団などでない限り、真面目な処理業者が不法投棄をするのは、処理費が極めて少ないなど、相当の理由があるはずである。排出事業者との間に締結される契約の実態を解明することが必要である。
 排出事業者には何らの違反もないように見えても、料金のわりには仕事の量が異常に多いとか、産廃の性状等を開示せず、任せきりにしていたとか、次にみる混合汚泥肥料の事例のように、小さな設備の業者に処理能力以上の仕事を任せていたとか、処理の状況の確認を怠っていたなど、排出事業者の真の原因を看破することも必要である。無言の圧力を持つ陰険な排出事業者の責任を見逃してはならない。

 2.混合汚泥肥料の不法投棄事件と教訓
 ⑴近藤汚泥肥料の不法投棄事件の経緯
 A社は、甲県内外の公共下水処理施設および民間下水処理施設等の下水汚泥を引き取り、汚泥の処理という中間処理業を兼ねたリサイクル事業として、下水汚泥に木材チップ等を混合して、混合汚泥肥料を製造・販売していた。
 しかし、肥料の効能が悪いとか臭いなどの理由で、農家がその肥料を使わなくなってきたため、作っても全然捌けなくなり、自分の工場内の貯留施設も小さくて、すぐに余ってしまう。
 捌き先に困ったA社は、混合汚泥肥料の置き場所としての土地を探していたところ、自分がその肥料を引き取って販売や処理をしてやろうというB社(乙県)から声がかかり、頼むことにした。しかしB社は、産業廃棄物については何らの許可も有していなかったから、本件汚泥の保管や処理などをすれば廃棄物処理法違反になるのだった。
 しかしA社はそこまで考えがまわらず、従業員たちに命じて、作った肥料をB社の敷地に搬入した。この肥料の運搬が継続していたときに、警察からの捜査が入った。A社の搬入した肥料は本当の肥料ではなく、ただの産業廃棄物(汚泥)だと指摘された。A社がB社に搬入した量は、8か月の間に合計1万9800立方㍍という大量になった。この汚泥には、硫化水素も含まれていたので、その点からも肥料にならないと認定された。硫化水素の混入は、別の会社から、石膏ボード粉を乾燥用に使えば効果が強いよと教えられて使ったためであったが、騙されたのであった。
 結局、A社もB社も廃棄物処理法違反の罪で起訴され、有罪となった(執行猶予)。
 ⑵教訓
 ①仕入れた汚泥を材料として混合汚泥肥料にするというリサイクル事業では、その製品である肥料が捌けなければ営業が成り立たない。捌くためには、肥料の成分がよく、農家に売れる製品でなければならない。
 ②本件では、製品としての肥料が本当に有益な製品であったか、よく検証する必要があったのである。
 なぜなら、混合汚泥肥料は発酵させなくて済むので、発酵肥料と比べて随分と簡易に出来上がるものだからである。A社は、出荷は汚泥を仕入れてから5日もあれば十分といっていた。汚泥発酵肥料は約1か月かけて発酵させるのと比較されたい(第5期-1)。
 ③A社の処理能力や貯留施設が小さすぎたこと。A社は施設が小さくて2~3日ですぐ満杯になり、ゆとりがないと嘆いていた。継続して的確な営業ができるためには、相応の処理能力を持つ施設でなければならない。
 ④本件では、A社の汚泥の回収量が施設の処理能力ないし収容能力をオーバーしていたために根本的な過ちがあるが、A社に委託していた排出事業者たちも法第12条第7項の「処理の状況に関する確認」をしていなかったのではないかと思う。
 もし、排出者が業者の処理施設を訪ねて、処理の施設や処理の仕方を見ていたならば、委託量を減らしたと思われ、大規模な不法投棄は防げたと思われる。
 ⑶めずらしい措置命令の代執行
 本件の不法投棄物である汚泥は、高濃度の硫化水素が混入しているということで、A社・B社・C社に措置命令が発出された。A社はほんの一部を搬出して焼却処理したが、大部分は3社ともできなかったため、乙県において代執行することになった。
 しかし、実際に搬出して焼却処理するには、量が多くて数十億円を要すると見込まれたことや、硫化水素の噴出の危険が大きかったために、詳細は知らないが、そのまま、その土地上に存置して包囲・封鎖するという珍しい方法を採ったようである。(つづく)

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