INDUST2024年3月号に「行政手続と廃棄物処理法 その7 ~紀伊長島町水道水源保護条例事件~」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2024年3月号に「行政手続と廃棄物処理法 その7 ~紀伊長島町水道水源保護条例事件~」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2495916/
今回は廃棄物処理施設設置をめぐる行政処分の適法性が争われた重要判例である「紀伊長島町水道水源保護条例事件」について解説します。
事案は、X社が三重県紀伊長島町(現・紀北町)において産業廃棄物中間処理施設の建設を計画し、県の要綱に基づく事前手続きが開始された後、町がその計画を知り、水道水源保護条例を制定したというものです。町は条例制定後、X社の計画施設を「水源の枯渇をもたらし、またはそのおそれのある事業場」として「対象事業場」に認定し、設置を事実上禁止しました。一方で、県は施設の設置許可を行っており、X社はこの認定処分の違法性を主張して訴訟を提起しました。
この事案で問題となるのは、法律と条例の関係です。徳島市公安条例事件(最判昭和50年9月10日)で示された枠組みによれば、条例が法律に違反するかどうかは、対象事項と規定文言の対比だけでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって決せられます。本事件では、条例自体は廃棄物処理法の趣旨・目的・効果を阻害するものではないという前提の下で判断されています。しかし、本件条例は特定の事業者(X社)の計画を阻止するために制定された「狙い撃ち条例」という特徴があります。最高裁はこのような条例の適法性について一般的な判断は避けつつも、特定の状況における行政の義務について重要な指針を示しました。
最高裁は、「規制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すもの」であることを考慮し、条例が定める協議手続きの重要性を指摘しました。そして、町は条例制定前からX社の計画を了知しており、「施設設置の必要性と水源保護の必要性を調和させるための措置を検討する機会を与えられていた」ことから、認定処分を行うにあたって「指導配慮義務」があると判断しました。具体的には、「十分な協議を尽くし、地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし、事業者の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務」です。
差戻し審である名古屋高裁は、この指導配慮義務の内容をより具体化し、「事業者において問題点が理解できる程度の協議や指導をする必要があり、それがないままに認定処分が行われれば、いわゆる不意打ちとなり、事業者の立場を不当に害する」と判示しました。そして、町がこの義務を尽くさなかったとして、認定処分を違法と認定したのです。
本判決後、X社から町に対して国家賠償請求訴訟も提起され、60億円という高額の損害賠償が請求されました。2013年の津地裁判決では、町の義務違反と処分の違法性は認められたものの、損害額はプラント建設会社にすでに支払った代金7307万円(請求額の約1.2%)に限定されました。
この判例の重要な点は、「狙い撃ち条例」であっても、その条例に基づく処分を行う際には、行政は事業者に対して適切な指導を行い、事業者の地位を不当に害することのないよう配慮する義務があるという点です。言い換えれば、計画阻止という条例の目的がそのままストレートに処分に反映された場合には違法と判断されることになります。
廃棄物処理施設の設置計画に対しては、地元住民の反対がつきものであり、計画発表後に水道水源保護条例などが制定されることは珍しくありません。こうした状況で条例が廃棄物処理法よりも厳しい規制を設け、あるいは行政の指導が廃棄物処理法の趣旨に適っていないと思われる場合、徳島市公安条例事件の基準および本判決が示した「指導配慮義務」の考え方が重要な参考となるでしょう。事業者と行政の双方が、この判例の示す枠組みを理解し、適切な対応を図ることが求められます。
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