INDUST2024年1月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その5 ~産業廃棄物処理施設設置不許可処分と取消請求(肯定)~」が掲載されました。

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。

2024年1月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その5 ~産業廃棄物処理施設設置不許可処分と取消請求(肯定)~」が掲載されました。
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今回は産業廃棄物処理施設設置不許可処分に対する取消請求が認められた事例(和歌山地裁平成16年3月31日判決)について、特に「信義則」に焦点を当てて分析します。

この事案では、X社が和歌山市に産業廃棄物処理施設の設置許可申請を行い、市は当初は許可処分相当との判断を内部で行っていましたが、告示・縦覧後に周辺住民から強い反対を受けると、X社に説明や協議の機会を与えないまま不許可処分を行いました。X社はこれを不服として不許可処分取消訴訟を提起しました。裁判所は、不許可処分事由の存否よりも先に「信義則違反」の有無を検討し、行政の判断は信義則に違反するため違法であり、本件不許可処分は取り消されるべきと判断しました。

信義則とは、社会生活において相互に信義を重んじ誠実に行動することを求める法原則です。この事例では、行政が事業者に「不許可処分がされることはない」と信頼させるような行動をとっていたにもかかわらず、住民の反対が予想以上に強くなったことで、突然態度を変えて不許可処分を行った点が信義則違反と判断されました。

裁判所は、行政が不許可処分を行うのであれば、不許可事由について事業者に説明し、許可申請の補正などの対応を検討させる機会を与えるべき信義則上の義務があったとしています。このような機会を与えることなく不許可処分を行うことは「不意打ち」にあたり許されないとしたのです。

この判決が重要なのは、行政手続きにおいても信義則が適用され、行政の不意打ち的な処分が違法とされる可能性を示した点です。事業者にとっては、行政の言動を信頼して行動した場合に、突然方針が変更されても一定の保護が与えられることを意味する心強い判決といえます。

ただし、信義則違反を主張するためには、①行政が事業者に信頼を与える行動を行ったこと、②その信頼に基づいて事業者が行動したことを立証する必要があります。したがって、事業者としては、行政指導の内容や協議の経過などを可能な限り記録に残しておくことが重要です。

また、この判決では付随的に、産業廃棄物処理施設の設置許可に関する重要な解釈も示されています。市は防爆設備の不存在を不許可事由に挙げていましたが、これは一般廃棄物処理施設の基準を産業廃棄物処理施設に類推適用したものでした。裁判所はこれについて、廃棄物処理法上の明文規定がない要件を類推適用して不許可とすることは許されないとしました。

この判断は、①廃棄物処理法上の要件を満たす場合には行政は許可しなければならないこと、②産業廃棄物処理施設の設置許可に関して行政に裁量の余地はないことを明確に示しています。これは実務上非常に重要な指針です。

廃棄物処理法に規定された要件以外の事実(例えば住民同意など)を要求して許可を拒むことや、条例等で廃棄物処理法の規制を超える要件を定めることは違法となる可能性があります。また、廃棄物処理法上の要件を満たす場合には、行政は許可を出さなければならず、許可するかどうかの裁量はないという点も重要です。この判例は行政処分の適法性を考える上で重要な指針を示しており、事業者と行政の双方がこの法理を理解し、適切な対応を図ることが求められます。

本稿ではより詳しく解説していきます。

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