INDUST2023年11月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その3 ~行政指導の違法と国家賠償請求(肯定)~」が掲載されました

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2023年11月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その3 ~行政指導の違法と国家賠償請求(肯定)~」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2456170/
今回は行政指導を違法に継続し許可申請の審査を留保した事案で国家賠償請求が認められた重要判例(大阪高判平成16年5月28日)について解説します。
この事案は、個人事業者Xが産業廃棄物処理施設(焼却炉)の設置許可を申請したところ、行政(県)が周辺住民の同意取得を求める行政指導を継続し、Xが同意取得は不可能であるとして協力できない旨を表明した後も審査を留保し続けた結果、法改正により新たな要件が追加され事実上許可を得られなくなったというものです。
まず前提として、行政指導とは事業者に任意の「協力」を求める行為であり(行政手続法第32条第1項)、行政は事業者が行政指導に従わないことを理由に不利益を課してはなりません(同条第2項)。また、「住民の同意」は廃棄物処理施設設置許可の法定要件ではありません。
事案の経緯を見ると、Xは昭和46年から土木工事業や家屋解体業を営み、解体木屑の野焼きを行っていましたが、違法との指導を受けたため焼却炉設置を計画。県の行政指導に従い、設置予定地のN町自治会から同意書と公害防止協定書を得て、平成8年11月に事前審査願と許可申請書を提出しました。
ところが工事が80〜90%進んだ平成9年7月頃、隣接するS町の住民から県に説明を求める連絡があり、県はXに対しS町住民の同意も必要と伝えました。Xは説明しようとしましたが住民側に拒否され、同意取得が不可能となったため、県に「苦情申出書」を提出し行政指導の撤回と速やかな許可を求めました。しかし県は行政指導を継続し、平成10年6月の法改正後、新制度ではXは許可要件を満たさないとして申請書を返却。このためXが国家賠償請求訴訟を提起しました。
裁判所は、県の行為について次のように判断しました。地元住民の理解と協力を得るため同意書等の提出を求めること自体は、強制にわたるなど事業者の任意性を損なわない限り違法ではありません。しかし、Xの「苦情申出」は行政指導に協力できない旨の意思を真摯かつ明確に表明したものであり、この不協力表明が社会通念上正義の観念に反する特段の事情は認められません。
したがって、県はこの時点で法定要件を満たしているかどうかを審査し、許可するかを判断する義務がありました。それにもかかわらず同意書等の提出を求め続け、判断を留保したことは、同意書等の提出を事実上強制しようとしたものであり違法と判断されました。
損害賠償の可否については、Xが焼却炉設置のためにすでに支払った費用(約1億1300万円)と支払義務のある残代金については、県の行政指導や許可申請への対応如何にかかわらず、Xが請負契約によって支払義務を負うものであり、県の違法行為との因果関係はないとして認められませんでした。
一方、逸失利益については、Xと処理施設は許可基準を満たしていたと推測され、県は遅くとも平成10年4月末には許可すべきだったとして、同年5月1日から5年間(許可の更新期間)の営業利益を失ったと認定されました。具体的な損害額は、同型焼却炉による処分量と処分料から売上を算出し、人件費や電気代などの経費を差し引いた4156万円と弁護士費用が認められました。
行政指導の継続が違法となるのは、①行政指導に協力できない旨の意思が真摯かつ明確に表明され、②申請者の不協力が社会通念上正義の観念に反するような特段の事情がない場合です。この要件を満たせば、国家賠償請求が可能となります。また、損害賠償の範囲としては、施設建設費自体は因果関係がないとして否定される一方、逸失利益については具体的な数値に基づいて認定されます。特に未だ営業を行っていない段階での逸失利益の算定方法を示した点で実務上参考になる判例です。
廃棄物処理施設の設置許可申請において、住民同意の取得は難しい課題です。しかし法定要件ではない住民同意を事実上強制するような行政指導の継続は違法となり得ることを、事業者も行政も十分理解する必要があります。
本稿ではより詳しく解説していきます。
是非ご覧ください。