INDUST2023年10月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その2」が掲載されました。

全国産業資源循環連合会(全産連)の月刊誌『INDUST』に
芝田麻里が2017年から「産業廃棄物フロントライン」を連載しています。
2023年10月号に「行政手続きと廃棄物処理法 その2」が掲載されました。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281682499/b/2445888/
今回は行政指導に従わない意思が表示されたにもかかわらず行政指導が継続された場合の違法性について、重要な裁判例(さいたま地裁平成21年10月14日判決)を解説します。
この事案は、平成20年4月にX社が県に対して産業廃棄物処理施設の設置許可申請を行ったところ、同年9月、X社が施設建設予定地のA町の環境保全条例に基づく住民との意見調整会を一回行っただけで手続きを中断したことを理由に、県が申請書を返戻したというものです。訴訟においてX社は、県が許否の処分を行わないことが「不作為」の違法にあたると主張し、予備的に申請書の返戻が違法な受理拒否処分であると主張しました。
裁判所は、県の行為について次のように判断しました。まず、行政庁には法令に基づく許認可申請に対して許可・不許可の応答義務があるところ、県知事は申請から口頭弁論終結時までの約1年1ヶ月の間、処分を行っておらず不作為の事実があるとしました。また、申請書の返戻は行政指導の過程における事実行為に過ぎず、処分とは認められないとしました。そのうえで、標準処理期間(65日)を経過したにもかかわらず処分が行われていない場合は、原則として不作為は違法になるとし、この期間徒過を正当化する「特段の事情」がある場合に限り違法とはならないとしました。
県は「特段の事情」として、①X社は行政指導に従わない旨を真摯かつ明確に表明していない、②住民が施設設置に反対している状況下で、X社に説明努力を求め、状況改善を期待して判断を留保してきた、すなわち「公益上の必要性」があると主張しました。この主張は、国家賠償請求訴訟に関する最高裁昭和60年7月16日判決の基準を援用したものです。
しかし裁判所は、県の主張を以下の理由で退けました。まず、昭和60年判例は損害填補を目的とする国家賠償法上の問題に関するもので、違法な不作為からの救済を目的とする不作為違法確認訴訟にそのまま当てはまるものではないとしました。また、県の主張によれば、公益上の必要性を理由にいつまでも処分を留保することが可能となってしまい、これは事務処理の迅速化を図る行政手続法の趣旨に反するとしました。
さらに裁判所は、廃棄物処理法が産業廃棄物処理施設の設置について環境への影響を考慮して許可要件を定め、生活環境保全の見地から必要な条件を付すことができるとしていることから、住民の反対という状況下でも「行政指導に従わない事業者であることを前提に許可又は不許可の判断をし、許可をする場合には必要な条件を付することで対処すべき」であり、行政指導の継続を理由に許否の判断を留保することは許されないと判断しました。
この判決が重要なのは、以下の点を明確にした点です。第一に、行政指導の継続による不作為は、これを正当化する特段の事情がない限り原則として違法であること。第二に、「公益上の理由」は「特段の事情」にはあたらないこと。第三に、住民の反対に対しては、許可に条件を付することで対処すべきであり、行政指導は事業者の「任意の協力」を求めるものであって、行政指導に従うことは許可要件ではないということです。
実務上、住民同意を求める行政指導はよく見られますが、住民の反対は事業者の説明努力だけでは解決できないことが多いのが現実です。住民反対という事態の解決を事業者の努力に任せ、解決しない限り判断をしないという対応は、行政の責任放棄にあたるという裁判所の判断は極めて重要です。
行政指導の継続が違法にならない場合の明確な基準は示されませんでしたが、行政は「行政指導に従わない事業者である」ことを前提に、許可要件(①欠格要件非該当、②施設と申請者の能力が事業を的確かつ継続して行うに足りること)を満たしているかを判断すべきという指針が示されました。
本稿ではより詳しく解説していきます。
是非ご覧ください。